一粒のレーズンを10分かけ食べる
Vol 100
「新潟で雪が降っている匂いがする」。埼玉で大学時代を過ごしていた私が、雪国育ちなんだなぁと実感した瞬間でした。私が過ごしていた埼玉は、最寄り駅には数時間に1本ディーゼル車が通り、森の中の神社の境内で流鏑馬が行われるような所でした。
でも、田舎といえどそこは埼玉、年に数回しか降らない雪にみんなてんてこまいでした。そこにいると、はっきりと新潟で雪が降っている匂いが分かるのです。十日町から離れて初めて知った感覚でした。そして、「今日は雪」という天気予報で心配している同級生に「大丈夫、降らないよ。雪になる匂いがしないもん」と言って当てるため、びっくりされたものでした。
最近自分が元気でいるため、そして自分を忘れないために何が必要かを考えたとき、自分の五感を刺激することが重要ではないかと思いました。
まず視覚(見る)。意識的に見るのです。自分の好きなもの、美しいと感じるもの、そこに多くの色彩とそれを輝かせる光があることを脳みそ全体で感じます。
そして聴覚(聴く)。早朝散歩がマイブームの私は、あえて車通りの無い方へ向かいます。靴底が土をとらえる音、木々の梢を風が揺らす音、田んぼに引かれる水の流れる音、鳥のさえずり、大きな欅の木の声など。静寂すらそれも音。外に出る時はイヤホンで音楽を聴かないのが私は好きです。
味覚(味わう)。長年の癖で早食いになってしまうので、ひとりでご飯を食べる時ほどゆっくりと味わって食べたいと思っています。
嗅覚(嗅ぐ)。職場の同僚がある日、「玄関を出てクサッ! と思ったら、栗の花がすごかった」と。自分が感じ切れていない匂いはまだまだあるのだなと思いました。四季を感じる匂い、これを読んでいる皆さんの方がたくさん知っているのではないでしょうか。
触覚(皮膚で感じる)。私は「土に触れる」、これをしたいがために田舎に戻ってきたと言っても良いくらいです。昨日、今年初めて我が家の猫の額ほどの家庭菜園できゅうりの収穫をしました!やったー。
米国のある博士が仏教の瞑想を医療の分野に持ち込み、宗教的要素を取り除いて科学的に効果を実証させたものに、マインドフルネスがあります。マインドフルネスにはレーズンを食べる瞑想があるのですが、手の上の一粒のレーズンを見て耳元で音を聴いて匂いを嗅いで唇で触って、そして口に入れしばらく舌の上で転がした後に噛むのです。(一口で食べられるものなら何でもよく、甘納豆や焼き甘栗などで代用可)。
レーズンがどんなところでどんな人の想いで作られ自分のところにやってくる過程を想像し、また自然の恵みに感謝する気持ちを巡らす、そうすると幸福感で満たされる、と。
まさに五感を刺激する食べ方です。一粒食べきるのに最低10分はかかるでしょう。たかき医院にも五感を刺激する工夫が沢山あります。診察が無くても是非体と心を休めにお立ち寄りください。
(たかき医院・仲栄美子院長)