『市町村は人口減少対策から脱却を』。こんなタイトルの意見を日経紙面で見た。地方自治総合研究所の坂本誠研究員は言い切る。「そもそも、人口減少対策を市町村に委ねること自体に無理があるのではないか」。全国の人口減少に悩
む市町村は、「移住政策」と称する独自事業を打ち上げ、「うちの町に来ませんか、うちの村はどうですか」と、全国規模で人口が減少しているこの国の「やせ細るパイ」の奪い合いを繰り広げているのが、自治体の移住政策の実態ではないのか。「市町村の本分は、住民ひとり一人の生活の質を上げること。それによる定住環境の確保にあるのではないか」。坂本研究員は、浮足立つ人口減少対策に一石を投じている。
住民生活の「質」は、個人や地域ごとに多様だ。市長・町長・村長は住民との対話を掲げ、語る会など継続的に開く。生活から出る言葉をよく聞いていくと、住民が求めているのは立派な公民館やコミュニティー施設ではなく、最寄りの場所に「茶飲み」ができる場や気軽に集える広場などではないのか。声高に「移住」を叫んだところで肝心の住民が離れたのでは、まさに元も子もない。地域が行政に求めるのは、財政投資による「活性化」ではなく住民に余計な負担をかけずに、静かに見守り、安心して暮らせる環境づくりではないのか。
坂本研究員は続ける。「人口減少対策に全国各地で取り組むが、一握りの成功と、その陰に数多くの失敗例がある」と述べ、「住民であれ、移住者であれ、目の前の住民と共に腰を据えて向き合い、生活の質の向上に取り組む定住対策への転換だ」。人口減少対策の根本部分は国の社会保障制度の設計にあるとして、生活の質向上の第一義は市町村行政にある、と言い切る。まさに、目からウロコだ。細るパイの奪い合い、この実態を先ず見ることだろう。安心・安全の真の意味を考える時だ。