中沢 英正(県自然観察保護員)
晩秋のブナ林で、足元にオレンジ色の粒を見つけた。径3ミリほどだが鮮やかな色で人目を引く。細い柄が地中に伸びていることからキノコのようだ(写真左)。
「もしかして…」と、柄を切らないように慎重に地面を掘ると落葉の塊に辿りつく(写真右)。帰ってから落葉を取り除くと白い菌糸に覆われた正体不明の幼虫が現れた。冬虫夏草との久しぶりの出会いだった。
冬虫夏草とは虫の死骸から生えるキノコの仲間である。とりつくのはトンボやカメムシの成虫、セミやコガネムシの幼虫などいろいろだ。恐ろしいのは、生きている虫にとりつき殺した上で体内の養分で成長するところだ。
中国では冬虫夏草は漢方薬の原料のひとつ。コウモリガ類の幼虫についたものは高値で取引されている。
冬虫夏草はとにかく小さい。写真のものは地上部が6ミリほど、全体でも長さ4センチほどしかない。目立たないように暮らしているにも係わらず結実部(先端の胞子をつくるところ)の目立つオレンジ色にはどんな意味があるのだろう。