「24時間、命と向き合う」

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伊藤 隆汰さん(2000年生まれ)

 勢いを増し燃え盛る火、初めての火災現場で初めての放水…。消防官になり初体験した現場は、想像を超える過酷さだった。「迫る火の勢いと熱さ、これが現場かと、ちょっと恐怖さえ感じました」。あれから5年、十日町地域消防本部消防官として事故や災害、病気など「命」と向き合う現場に出動し救急活動にあたっている。

 「小さい頃から消防自動車や消防官へのあこがれがあり、十日町地域消防が毎年開く『消防ひろば』には必ず行っていました。はしご車にも乗せてもらいました」。そのあこがれが、さらに具体化したのが映画『252生存者あり』。大災害に見舞われた東京を舞台に「生還」と「救出」の消防レスキュー活動を描いた人間ドラマ。「あれを見て、レスキュー隊員になろうと決めました。あとはその目標に向かってまっしぐらでした」。
 保育園時代に乗せてもらった消防はしご車。入署して3年目、消火訓練で消防はしご車バケットに入り高さ25㍍まで上がり、高所訓練を経験。「実は高い所がちょっと苦手でしたので、高いなぁーと感じながらの訓練でした」。だが、いまは経験を積み、高さへの恐怖心はなく、どんな現場にもひるむことなく臨んでいる。
 地域の高齢化、独り暮らし世帯増加などから救急救命の出動が増加するなか、5年の現場経験から「救急救命士」の重要性を感じている。救急車乗車は「救急資格」を取得しなければ乗れない。入署2年目で資格取得した。救急救命士は乗車資格取得後、さらに5年間の救急経験、あるいは2千時間の救急業務経験など一定条件をクリアしないと資格試験に挑戦できない厳しい国家資格だ。それをめざしている。
 「まだ救急業務の経験年数が足りていないので受験できませんが、必ず目標の救急救命士を取得します」。
 十日町地域消防本部では年間3500件余、1日平均10件余の出動があり、年々増加傾向にある。消防官は24時間勤務後、非番(緊急時は出動)、休日という3日間サイクルが勤務体系。まさに体力と気力、精神力が求められる。一方で風邪の発熱、指先を切ったなど全国的に問題視される「不適切利用」も増加要因になっているといわれる。
 体力づくりはランニングだ。非番や休日で走り込む時は30㌔ほど走る。十日町の国道117号を本町からスタート、小千谷境で折返し、そのまま土市・姿まで行き、本町に引き返すルート。30㌔を超える距離を2時間弱で走る。
 2022年10月には初のフルマラソンに挑戦。「金沢マラソンです。大会3ヵ月ほど前に先輩から、俺が出られなくなったので出てみないかと誘われ、やってみるかと出場を決めました」。初出場ながら2時間50分台で走り切った。いまも1日10㌔ほど走っている。高校時代の陸上部活動がいまに通じる。800㍍、1500㍍に取り組み、3年の時は駅伝で県大会入賞を果たしている。

 今年2月、佐渡出身の萌さんと入籍。今春の新潟ハーフマラソンに一緒に出場。「結構、走るんですよ。今度は2人でフルマラソン出場をめざします」。今秋10月、結婚式を挙げる。「そうですね、来年4月の『佐渡ときマラソン』に2人で出場する予定です」。良きパートナーとの出会いは、目標とする「救急救命士」取得へのモチベーションを高めている。
 数々の現場を体験し、命と向き合う日
々。悲惨な現場、目の前で命が途絶えていく現場、言葉に表せない数々の惨状。消防官、救急隊員の心身の負荷は計り知れない。
 「すぐには切り替えられない場面もありますが、先輩などと話をして貯めないようにしています。私の場合、ランニングがリセットの場になっています。今後、さらに私たちの出動数は増えていくと思いますが、それが私たちの使命ですから」。

▼バトンタッチします。
 栁拓玖さん