『クワガタに魅せられ』

contents section

髙木 良輔さん(1994年生まれ)

 その体験が、いまもベースにある。小学2年の夏休み、祖父と兄、2人の従兄と一緒に早朝のクワガタ・カブトムシ採りに行った。母の実家、茨城・古河市の自然は、小学生には魅力的な地だった。
 「もともと、一つのものに対して執着心を持って、深めていくことが好きな子でしたので、虫を長い時間じっと見ていたりしていました」。
 クワガタ。その生態をどんどん知りたくなり、小学時代で専門誌や昆虫図鑑を見て情報を集め、家族旅行の行先も自然を求めての旅。飼育と養殖にも取り組んだ。だが中学生になり、「周りは音楽や不良カルチャーが関心でしたから、友だちには分からないように話題にはせず、ひっそりと自分だけでやっていました」。 さらに高校時代も進学先に生物部がなく、ここでも「ひとりの世界」だった。だが「自宅から高校まで往復26㌔、自転車通学していましたから、把握できる地点が多くなり、あそこに行けばクワガタがいるなど通学が自然散策でした。帰りが夜8時を過ぎることもありました」。
 クワガタへの関心と共に、鉄道を通じて全国の地名への関心も並行して高まり、進んだ専修大・環境地理学科では各地へ演習に行くことで、さらにクワガタとのつながりが濃くなっていった。「全国を旅しました。これまでに47都道府県のうち山口、宮崎以外の45都道府県に行っています。その先々で、知らないことへの関心がさらに深まっています」。 その学生時代。飼育・養殖をアパートで行い、百匹近くを飼育。整然と積み上げられた収納箱を見た学友は「こんな部屋は初めて」と驚かれたというが、いまはさらに種類も数も増えている。

 『クワガタを身近に観察できる環境に暮らしたい』。その契機は2020年6月に訪れた。一つの場所で一夜で50匹以上のミヤマクワガタと出会った。その地は湯沢町だったが、魚沼エリアを調べると十日町地域にはさらに魅力的な自然環境があることが分かった。2021年4月から地域おこし協力隊で十日町に入り、松代中部地区(松代田沢・小荒戸・菅刈・太平・千年・青葉・池尻の7集落)を担当、今春3月で退任。旧松代町内に定住している。
 協力隊の3年目、2023年8月。十日町市と友好交流する世田谷区民祭で「クワガタ・カブトムシ」を出品した。「対面販売をしたんですが、子どもたちの反応がとてもよく、その時、クワガタを求めた家族とは今も交流が続いています」。 この時の好感触で「クワガタでやれるかも」と飼育・養殖・販売の強い手応えを掴んだ。前年の2022年度の十日町ビジネスプラン審査会で最優秀賞も受け、現在は外国種30種、国内15種を飼育・養殖している。

 「この地域の自然環境は、クワガタ生息に合っています。ミヤマクワガタは標高百㍍以下に生息し、ヒメオオクワガタは標高7百㍍以上に。関東地方では前者は3百㍍、後者は千㍍級に生息しています。当地域は山地の標高が低い割に冷涼な気温で、生息環境が良いからです」。 この魅力的な自然環境を子どもたちの体験の場にしたいと考える。「市内のキャンプ場と連携し、クワガタ生息地での自然体験ツアーを計画したいです。世田谷の子どもたちとの交流のように、子どもたちにこの自然を体験してほしいです」。

 クワガタに魅せられている自分の存在以上に、この地に生息するクワガタの存在感が、さらに増している。
◆バトンタッチします。
 「原 拓矢さん」