中沢 英正(県自然観察保護員)
3月、河川の水はまだ冷たいが水中ではいろんな生き物が活動し始める。浅瀬の石をめくると、カゲロウ、カワゲラ、トビケラなどの幼虫がへばりついている。扁平や細い体で水流をやり過ごしているのだ。
面白いのが糸を吐き出すことができるトビケラの仲間である。種類によってその糸で石にくっついたり、川底の小石や植物片を綴って巣をつくっている。
ニンギョウトビケラは石粒を使って長さ1センチほどの袋状の巣をつくる。不思議なのはその両側にさらに大きい石粒を3~4対くっつけることだ。特徴ある姿が人形に見えることからの呼び名である。巣にはいったまま動き回り食べ物を探す(写真)。
山口県岩国市では「石人形」の名で江戸の時代から人気の土産であったという。錦帯橋を洪水から守るため身をささげた乙女の生まれ変わりとして、七福神や仏様に見立ててのお守りとして人の心をつかんできたのだ。
こんな小さな生き物まで気に留めていた先人の眼力に脱帽である。