光から音へ「感じるアート」

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ウォルフガング・ギルさん(1983年生まれ)

 生まれた街は、いつもアートで彩られていた。南米北部ベネズエラの首都カラカス生まれ。原体験の延長に今がある。光で空間をアート展開し、光から音へと進化し、「感じる」アートに取り組むウォルフガング・ギルさん(40)。
 先週の金曜23日、昨年8月から暮らす十日町市下条に『ホンク・ツイート美術館』と『カフェ』を開いた。『音楽彫刻家』と名刺にあるギルさん。ニューヨークから知人を頼り家族3人で移り住んだ。
 「自然とアートが共存している素晴らしい妻有に、すぐに恋に落ち、移住を決めた」。

 カラカスのメトロポリタン大学でシステム工学学士号を取得し、銀行に就職したが6ヵ月で退職。「エンジニアの業務や計算は好きだったが、オフィスの環境が合わなかった」。生まれ育った
アート環境が、自分の中で動き出すのを感じた。
 光の直進性、その屈折や色の錯綜感に魅かれた。「数学的、理学的で光と色を計算し、アート表現しているカルロス・クルス=ディエスに魅かれ、自分と同じ価値観を感じた」。自宅ガレージで光によるアート実験を重ねながら、この道への思いを強くした。友人から「アーティストになるならニューヨークに行ったほうがいい」と勧められ、25歳で渡米。「家族には語学学校に行って戻ってくると言って、そのまま美術大学院に入ったんだ」。
 この語学学校で運命的な出会い。2008年、学生だった愛里さんと会う。「出会ってすぐ魅かれ合い、2週間後には学校の寮で一緒に暮らし、今に至ります」。「私はやりたいことが多くあり、愛里はいつも側で応援してくれている。愛里は家族であり、友人であり、パートナーであり、そして最大の協力者だよ」。
 ニューヨーク・ブルックリン大学院を卒業後、アートの関心は『音・サウンド』に向かう。「音はそもそも周波数で表され、周波数が高いほど高音に、低いほど低音になるなど数学と深く関わっている」。
 だが、「音は目に見えず、理解してくれる人は少なかった」。問題解決のため『音の形』を追い求め、視覚化に取り組んだ分野が音響彫刻。「音は目に見えなくても空間を満たし、彩を与えたり、分割したり、さまざまな姿を見せてくれるが、金属やガラス、プラスチックなど変容性のある素材を使って作った彫刻を振動させることで、さらに音の変化を楽しむことができ、場所や空間自体を作品にできる」。

 日本へ、妻有へ向かう転機は、愛里さんの妊娠だった。「仕事も安定してきたので、出産のため一緒に日本に一時帰国したんだ。その時、知人に大地の芸術祭を教えてもらって」。昨年2月、妻有初訪問。「ここ妻有の地に、すぐに恋に落ち、移住を決めたよ」。
 今月23日開設の『ホンク・ツイート美術館』。ホンクは車のクラクション、ツイートは鳥のさえずり音を意識し名付けた。「私はニューヨークのコーヒーも好きで、どうしてもそれが飲みたくて、オーストラリアからイタリア製のエスプレッソ・マシンを購入してきた。税関で止められた時はひやひやしたね。ここで、おいしいコーヒーを飲みながらアートや窓から見える自然を楽しんで欲しいね」。
 ギルさんの思いはさらに広がる。「美術館を拠点に、多くの人が集まる場になって欲しい。アー
トを楽しむバーや音楽を楽しむクラブなどもしたい」、「何かを表現したい人の教育の場も作りたいし、山の中に倉庫を借りてアートスペースをもっと作りたい」と話す。
 さらに、「アートをめざしてきたが、エンジニア大学で学んだ方法論が今も生きている。方法論があるおかげで夢だけで終わらず、叶えるための行動や方向性を導き出している。すべて繋がっているよ。面白い」。

▼バトンタッチします。
 春日彩音さん
    
 『ホンク・ツイート美術館』=水曜~日曜午前8時~午後5時開館。十日町市下条4丁目489番地1。今後バー経営も検討している。インスタグラム@thehonktweetcafe