米粒の道のり

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照井 麻美(津南星空写真部)

 朝、目を覚まして窓を開けるとベランダの手すりに米粒が立っていた。
 不思議に思い眼鏡をかけ直し、寝起きの開き切らない目を凝らしてみるとやはり小さな玄米が手すりの縁にチョンと立っているのだ。
 ベランダに米なんて持っていくわけないし、昨日まで無かった米粒。一体どこからやってきたのだろうと、じっくり観察していると鳥の糞ではないか。きっとスズメだろう。
 普段ならまた糞をしていったなと忌々しく思うこともあるのだが、なぜかここに春を感じてしまった。
 我が家は木造の家で数カ所スズメが巣をかけている場所がある。冬の間、鳴くこともほとんどせずにどこに行ったのかと思っていれば、暖かくなると、どこからともなくチュンチュンとスズメたちが帰ってくる。
 彼らも春になり活発に動くようになり、どこかで米を食べたのであろう。他の鳥に食べられないように慌てて飲み込んだのか、米粒は消化されずそのまま排出されたのだ。私にはこの米粒がどこから来たのか、本当のことは知らないが、我が家のベランダまで来た米粒の物語を想像することは、何とも言えない微笑ましい時間だった。