老舗ホテルの一部を学生寮に

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大学とまちづくり

清水 裕理 (経済地理学博士)

 前回に続き、新潟県三条市に設立された三条市立大学に関連して、「大学とまちづくり」について、書いてみたいと思います。
 三条市立大学は「ものづくり」に特化した大学で、入学の倍率が5倍を超える人気となっています。自治体や企業からの支援がいくつかあり、学生が三条市の旧市街地に住む場合は、自治体からの家賃援助があります。
 私は燕三条に出張で行く際、その三条市の旧市街地にあるホテルを定宿としているのですが、周りは高齢化が進んでいるのでしょう、年々お店の閉店や空き地が増え、その流れはまだ変わっていないかもしれないのですが、今年くらいから、明らかに道を歩いたり自転車に乗ったりしている若者の姿が目立って増えてきました。それによって、まちに少しずつ活気が出てきたように感じます。
学生たちは、町内会の消防団やお祭りなどのイベントにも参加しているとのことでした。そのような経験がしたくてもできない都会出身の若者たちなど、積極的に経験をしてみたいと希望する若者も一定割合いると想像します。
 まちの方々に聞くと、最近の若者は挨拶もして礼儀正しいと、うれしそうに語っていらっしゃったのが印象的でした。
 私の定宿としているホテルは老舗で、燕三条の歴史をずっと見てきたホテルです。燕三条の全盛期は多くのバイヤーで溢れ、それはすごい活気だったと思います。それに比べると、訪問者は減り、最近のコロナも経営の打撃となったはずです。
 そのような状況を乗り越えようと、市内に大学ができ、先に紹介した学生への支援が始まったこともあり、ホテルの一部を学生寮にするという判断をされました。
 今までのホテルの部屋をなるべくそのまま活かし、無理なリフォームをせず、必要な設備は自治体の既存のチャレンジ補助金などを活用しコインランドリーを増強するなどして、工夫をされています。平日の朝と晩の美味しい食事も提供されます。
 そして、目には見えない点ですが、ホテルの従業員の方が、学生との日常のやりとりのなかで、旧市街地での生活に馴染めるようにフォローをしている様子が、ところどころに窺えました。
 ホテルの建物の活用に加え、ホテルのもつホスピタリティが、そのようなところに、さりげなく発揮されていることは素晴らしいと思いました。 そして、「大学とまちづくり」において、まちの拠点となり、まちと学生をつなぐ重要な役割を果たされていると感じました。

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