Category

妻有新聞掲載記事一覧

  • 「24時間、命と向き合う」

    伊藤 隆汰さん(2000年生まれ)

     勢いを増し燃え盛る火、初めての火災現場で初めての放水…。消防官になり初体験した現場は、想像を超える過酷さだった。「迫る火の勢いと熱さ、これが現場かと、ちょっと恐怖さえ感じました」。あれから5年、十日町地域消防本部消防官として事故や災害、病気など「命」と向き合う現場に出動し救急活動にあたっている。

     「小さい頃から消防自動車や消防官へのあこがれがあり、十日町地域消防が毎年開く『消防ひろば』には必ず行っていました。はしご車にも乗せてもらいました」。そのあこがれが、さらに具体化したのが映画『252生存者あり』。大災害に見舞われた東京を舞台に「生還」と「救出」の消防レスキュー活動を描いた人間ドラマ。「あれを見て、レスキュー隊員になろうと決めました。あとはその目標に向かってまっしぐらでした」。
     保育園時代に乗せてもらった消防はしご車。入署して3年目、消火訓練で消防はしご車バケットに入り高さ25㍍まで上がり、高所訓練を経験。「実は高い所がちょっと苦手でしたので、高いなぁーと感じながらの訓練でした」。だが、いまは経験を積み、高さへの恐怖心はなく、どんな現場にもひるむことなく臨んでいる。
     地域の高齢化、独り暮らし世帯増加などから救急救命の出動が増加するなか、5年の現場経験から「救急救命士」の重要性を感じている。救急車乗車は「救急資格」を取得しなければ乗れない。入署2年目で資格取得した。救急救命士は乗車資格取得後、さらに5年間の救急経験、あるいは2千時間の救急業務経験など一定条件をクリアしないと資格試験に挑戦できない厳しい国家資格だ。それをめざしている。
     「まだ救急業務の経験年数が足りていないので受験できませんが、必ず目標の救急救命士を取得します」。
     十日町地域消防本部では年間3500件余、1日平均10件余の出動があり、年々増加傾向にある。消防官は24時間勤務後、非番(緊急時は出動)、休日という3日間サイクルが勤務体系。まさに体力と気力、精神力が求められる。一方で風邪の発熱、指先を切ったなど全国的に問題視される「不適切利用」も増加要因になっているといわれる。
     体力づくりはランニングだ。非番や休日で走り込む時は30㌔ほど走る。十日町の国道117号を本町からスタート、小千谷境で折返し、そのまま土市・姿まで行き、本町に引き返すルート。30㌔を超える距離を2時間弱で走る。
     2022年10月には初のフルマラソンに挑戦。「金沢マラソンです。大会3ヵ月ほど前に先輩から、俺が出られなくなったので出てみないかと誘われ、やってみるかと出場を決めました」。初出場ながら2時間50分台で走り切った。いまも1日10㌔ほど走っている。高校時代の陸上部活動がいまに通じる。800㍍、1500㍍に取り組み、3年の時は駅伝で県大会入賞を果たしている。

     今年2月、佐渡出身の萌さんと入籍。今春の新潟ハーフマラソンに一緒に出場。「結構、走るんですよ。今度は2人でフルマラソン出場をめざします」。今秋10月、結婚式を挙げる。「そうですね、来年4月の『佐渡ときマラソン』に2人で出場する予定です」。良きパートナーとの出会いは、目標とする「救急救命士」取得へのモチベーションを高めている。
     数々の現場を体験し、命と向き合う日
    々。悲惨な現場、目の前で命が途絶えていく現場、言葉に表せない数々の惨状。消防官、救急隊員の心身の負荷は計り知れない。
     「すぐには切り替えられない場面もありますが、先輩などと話をして貯めないようにしています。私の場合、ランニングがリセットの場になっています。今後、さらに私たちの出動数は増えていくと思いますが、それが私たちの使命ですから」。

    ▼バトンタッチします。
     栁拓玖さん

    2024年7月6日号

  • 「RSウイルス感染症」への理解を

    新生児、生後3ヵ月までは風邪予防を

    Vol 101

     最近このコラムを毎回切り抜いてとっています、とお声がけいただきました。本当にありがとうございます。今日は、新しい妊婦さん対象の予防接種のお知らせです。
     現在すでに妊娠中に接種可能なワクチンのある感染症に、インフルエンザ、新型コロナ、百日咳などがありますが、今年1月18日に妊娠中に接種して「新生児及び乳児のRSウイルス感染症の重症化を予防する」ワクチンが登場しました。
     RSウイルスの予防については、今までは重症化リスクのある児(早産児や先天性心疾患など基礎疾患のあるハイリスク児)に対してワクチン接種をしてきました。しかし、重症化リスクは基礎疾患のない正期産の子どもにもあり、しかも近年は流行の季節性もなく、現在RSウイルス感染症は乳児に限らず親にとっても極めて重要な疾病です。
     RSウイルス感染症は5類感染症に指定されており、生後1歳までに50%以上が、2歳までにほぼ100%が初感染しますが、症状は熱や倦怠感などの風邪症状から上気道症状(鼻閉、鼻水、くしゃみ)、下気道症状(咳、呼吸困難、喘鳴)まで様々です。
     成人にとっては鼻がグズグズする程度で済むことがほとんどですが、特に生後6ヵ月未満では重症化しやすく、肺炎、無呼吸、急性脳症なども引き起こします。
     生後間もなくRSウィルスに感染した子どもは、その後に気管支喘息を生じるとの関係性も指摘されています。日本では、年間12~14万人の2歳未満の乳幼児がRSウイルス感染症と診断され、そのうち3万人が人院を要し、入院発生数は生後1~2ヵ月時点でピークとなり、人工呼吸器管理となる場合も多々あります。また、対症療法が基本で有効な治療薬はありません。そのため予防が重要です。
     このワクチンを妊婦に接種することにより、RSウイルスに対する抗体が母体で作られ、そして抗体が胎盤を通じて胎児に移行することで、新生児および乳児におけるRSウイルスを原因とする下気道疾患を防ぐことができます。妊娠24週から36週の妊婦に1回筋肉内接種をします。ワクチンの効果は生後6ヵ月まで続きます。
     残念ながら今はこのワクチンに対して公費補助が無いため、希望者に限り自費で接種する形となります。妊婦さんへの副反応としては、注射部位の疼痛くらいで、重篤な全身症状などはないとのことです。
     新型コロナ感染症が2類から5類になり、今年は春から子どもたちを中心に様々な感染症が流行りました。そのうちの一つにRSウイルス感染症もありましたが、生後間もない赤ちゃんたちが今年は多く感染し、重症化して入院したという話を聞きました。
     まず赤ちゃんが家族にいらっしゃるご家庭の方は、重症化のリスクが高い生後3ヵ月になるまで赤ちゃんには風邪を引かせないように慎重になってください。 
     大人のちょっとした風邪症状でも赤ちゃんにとっては命取りになる感染症かもしれません。上にお子さんのいる方は特に注意が必要です。心配な時はどうぞ妊娠中のRSワクチン接種をお考え下さいね。(たかき医院・仲栄美子院長)

    2024年7月6日号

  • 柏崎刈羽原発再稼働は県民投票で

    三度、原発問題

    斎木 文夫 (年金生活者)

     6月23日は、本紙前号の本欄で松崎さんが書いていたように、「沖縄慰霊の日」です。
     今年の6月23日、私が代表を務める十日町・津南地域自治研究所では「第20回エネルギー問題連続講座」を開催しました。福島原発事故の現地調査報告会、柏崎刈羽原発再稼働を考える講演会、福島の写真展の3点セット。詳細は本紙前号をご覧になってください。
     講演会講師・大野隆一郎氏は、①柏崎刈羽原発は軟弱地盤の上に建っていること、②柏崎刈羽原発の核のごみはすでに満杯に近いこと、③日本は地震国、地下水が豊富で、核のごみの地層処分に適した土地はないこと、④能登半島地震でも見られた電力会社の隠ぺい体質を挙げ、柏崎刈羽原発は再稼働させるべきではないと訴えました。
     講演後、会場から「このような学習会も大事だが、原発を再稼働させない運動をする段階ではないか」とのお声をいただきました。私は「原発の危険性や問題点について学ぶ機会を提供するのが当研究所の役割」とお答えしました。
     歯切れの悪い答えに、当研究所の小林理事が「十日町市まちづくり基本条例はそうした運動の武器になるので、活用してほしい」とフォローしてくれました。皆さまもこの条例をぜひお読みになってください。議員さん、使えますよ。
     花角知事は、柏崎刈羽原発を稼働するかどうかの判断にあたり「県民の信を問う」と繰り返し、その手法については明らかにしていません。
     「県議会で決めれば」という人は、福島原発の過酷事故から何を学んだのでしょうか。出直し県知事選は、党派性や人格などが混じって、純粋に原発再稼働の是非を問うことにはなりません。
     大野氏は、東北電力巻原発を止めた旧・巻町の住民投票を例に、「県民投票」を提案されました。私も同意見です。
     4月に福島県楢葉町の宝鏡寺を訪ねました。寺の境内には「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」があり、世界の原子力災害の資料が展示されています。
     入口に貼られた短冊に目が留まりました。「這うことも/できなくなったが/手にはまだ/平和を守る/一票がある」。この歌を残したのは八坂スミさん。1982年、90歳のときの歌です。
     運動には色々な形があります。投票も大切な意思表示であり、闘いです。
    私たちは、県民投票の実現に向けて、反原発運動に「進み切れない」方々の背中を押す活動を続けていきたいと思います。

    2024年7月6日号

  • マツブサとチョウセンゴミシ

    中沢 英正(県自然観察保護員)

     どちらもマツブサ科の蔓性の樹木である。種子の他に、地下茎を這わせて繁殖する。
     出会いはいつも深山だが、苗場山麓では超がつくほどの希少種だ。
     見つかるのは若木が多く、蔓を伸ばして絡みついているものは少ない。花を咲かせる株など尚更だ。
     花期は6~7月で、雌花と雄花があり、別々の株につく。雄株の方が多いが、雌雄同株を見かけたこともある。同株で性転換するとも言われているが…。(写真はマツブサ雄株・左、チョウセンゴミシ雌株・右)。
     花は似ているが、房状に成長する果実の色は全く違ってくる。マツブサは青黒色に、チョウセンゴミシは赤色に熟すのだ。
     蔓や果実には薬効があることが知られている。茶や入浴剤として利用すれば、血行促進、強壮などの作用がある。
     名は、蔓に松脂のような匂いがあることからと、朝鮮から種子を輸入し、果実に甘、苦など5つの味があること(五味子)から。

    2024年7月6日号

  • 都市型BBQ「全国100店舗めざす」

    津南町・タイシステム 清水太志社長、スーパー「ロピア」連携で

     「住んでいるのは雪国、勤務地は都市部。この地に拠点を置きながら、都市で稼ぐ。ひとつの働き方の提案でもあるかな」。都市型バーベキュー(BBQ)事業の全国展開を始めているタイシステム(本社・津南町)の清水太志社長(47)は話す。昨期の売上高は約11億円で過去最高。さらに食品スーパー『ロピア』を展開するOIC(オイシー)グループ(本社・川崎市)と連携。5月末にタイシステムは同社の子会社となった。都市部出店が多いロピアにBBQ場を併設し、店舗で買った厳選食材をすぐその場で楽しめるサービスを来春スタートする計画。「単独でもやっていけたが、ロピアの理念に共感した。大きな資本力を得ることでさらに事業展開を進めたい。全国100店舗、売上100億円の企業をめざす」と目標を話している。

    2024年7月6日号

  • 桂公園こどもランド・福原久八郎事務局長

    子育て世代、応援する公園に

     窓を開けると、目の前が公園。休日には子どもと楽しそうに過ごす子育て世代が大勢集まってくる。「この世代が地域に根ざして増えてくれることが一番。そのための公園にしたい」。廃墟同然だった桂交通公園を年間2万人が訪れる公園によみがえらせたNPO法人桂公園こどもランドの福原久八郎事務局長(68)。 公園の目玉は園内を走るゴーカートやラジコンカーで、今では目にすることが少なくなった懐かしい遊具もある。先月中旬には子どもたちに人気の水遊び広場を設けた。NPOとして新たな歩みを始めて10年。子育て世代に密着した運営でこれまで三度の全国表彰を受けている。「経営は厳しいが、これからも子育て世代に愛される公園にしていきたい」。思いは尽きない。

    2024年7月6日号

  • 大地の芸術祭、メッセージを感じる

     アートの力を信じたい。先駆けの大地の芸術祭は回を重ねるごとに関心を集め、いまや全国300以上の芸術祭的なアートイベントがある。その本家本元、大地の芸術祭は来週13日、第9回展の開幕だ。本紙先週号のトップ、芸術祭・総合ディレクターの北川フラム氏の言葉が、9回展までの歴史を端的に物語っている。『…バスで空気を運んでいると言われた時代から、ここまで来た…』。第1回展の2000年以降、2回、3回と重ねるまでは、作品巡りバスは「空気を運んでいる」と揶揄された。それがコロナ禍の厳しい時期を経験しつつも、大地の芸術祭は世界ブランドに育ち、開幕の9回展では外国から多くの来訪者が、ここ妻有をめざすだろう。「アートの力」を感じる。
     注目はロシア侵攻が続くウクライナの作家たちの出展だろう。アートの力は、「過疎と過密」、「都市と山間地」のキーワードから、2000年の第1回展から変わらない理念『人間は自然に内包される』が、いま世界で起こる紛争につながり、そこには「平和」への強いメッセージが込められ、越後妻有から世界に向けて、さらに強く打ち出される9回展になるだろう。
     87日間の大地の芸術祭。アーティスト275組は41の国と地域から妻有で作品展開する。野外アート、空き家や閉校舎活用のアートなど、その作品が発するメッセージを、目で、耳で、皮膚で、嗅覚で、心で、まさに5感で体感してほしい。その地に居る自分と、その地に存在する作品、この関係性こそ越後妻有からのメッセージだろう。 
     「ここはどこ、私はだれ、どこから来て、どこへ行くのか…」、その先の視野にウクライナがあり、ガザがあり、アフリカがある。
     来訪者数が芸術祭の成否になる時代ではない、と考える。最終日11月10日、ここ越後妻有から世界に向け、どんなメッセージが発せられるのか。

    2024年7月6日号

  • 「21世紀の美術、妻有から」

    第9回大地の芸術祭 来月13日開幕

    311作品、ウクライナウィーク、秋山郷アート関心

     「日本の文化は極東の島国であり、吹き溜まりのような場所に世界からいろんなモノが入って来たから面白い。21世紀の美術は越後妻有から始まっているかもしれないと言われている。関わった地域の方、先人の努力、手伝ってくれる方の繋がりで、バスで空気を運んでいると言われた時代からここまで来た」。
     大地の芸術祭を構想段階から30年余、牽引し続けてきた北川フラム総合ディレクターはこれまでを振り返り、そしてこれから始まる第9回展(7月13日~11月10日のうち87日間)のメイン作品を参集の関係者170人余に説明。「歓待する美術」「感幸」「五感全開で楽しめる芸術」などキーワードを語った。

    2024年6月29日号

  • 核ごみ処分適地「ない」

    「脱原発が一番の安全策」と大野隆一郎氏

    十日町・津南地域 自治研究所講座

     再稼働をめざす動きが加速化している柏崎刈羽原発。今月13日は7号機で燃料装填に伴う検査を全て終えたと東京電力は発表。原子炉機動の準備を進めるが、「地元同意」が再稼働の最大の焦点。柏崎市や刈羽村は再稼働に前向きな意向を示すが、県は複合災害時の避難に懸念を示しており、花角知事は「県民に信を問う」姿勢を崩していない。

    2024年6月29日号

  • 『女将への道、高まる食への関心』

    伊藤 萌さん(2000年生まれ)

     運命は、どう動くか分からない。長野・松本市で大学生活を送るが、コロナ禍でオンライン授業が多くなり、そんな時、「なにか違う」と感じた。佐渡にある実家が営む旅館を手伝うなかで、父がSNSで懐石料理店の人材募集を見つけ「こんなのがあるよ」と見せられ、行こうと即決。その地が十日町市。
     あれから2年、この地で運命の出会い。今年2月、地元の消防士と結婚。それも「初めての地でしたから、飲み友だちがほしい…」と、妻有地域限定のマッチングアプリに登録、そこで出会ったのが消防士。とんとんと、結婚にまで至った。

     佐渡・真野湾に面した地で両親が営む『伊藤屋旅館』。父で6代目の老舗宿だ。「小さい頃から海に潜っていました。仕入れに行く父や、山野に行く母にいつもついて行き、海も山も好きになり、特に食べることが大好きで、それは今も変わっていません」。
     幼少期から「女将」として動き回る母の姿を見て育ち、「かっこいい。私も女将になりたい」と小学生の頃から口に出し始めた。その思いは、中学、高校、そして大学に至るなかで、次第に「将来的な予感」となり、料理の世界に入り、それは「確信」に変わった。その決定打が十日町市での出会いだった。
     飲み友だちを求めた結果が、人生のパートナーに至った。「私は条件を出しました。食で好き嫌いが全く無い人、一緒にコーヒーとお酒を飲んでくれる人」。でも、「実は私は結婚できないんじゃないかと思っていました。我が強いので。私の意見を受け入れてくれ、どんな時も支えになると約束してくれました。それに誠実さでしょうか」。これこそ運命の導きか。

     「食」への探求心は人一倍強い。「美味しいものが好き過ぎて、食材への関心がいまも高まっています」。特に「きのこ」。佐渡には松林があり「高校時代、よく松茸を採っていましたし、世界三大きのこのトリュフ、ポルチーニなども佐渡では採れます」。当然きのこ料理にも関心深い。昨年12月の誕生日祝いには、結婚前の彼に分厚い『きのこ図鑑』をリクエスト、念願の大図鑑を手に入れた。きのこは今の仕事にも通じる。十日町から八箇峠越えで六日町の雪国まいたけに通勤している。
     「佐渡は食材が豊かです。海のもの、山のもの、さらにフルーツも豊富で、りんご・みかん・ぶどう・さくらんぼなど、いろいろ採れます」。父は旅館と併設の「レストランこさど」のシェフでありパティシエとしてスイーツも担当する。「十日町も山菜など豊富ですね。この時期もきのこが出ますよ。ウスヒラタケなど。休日には山へよく行きます」。植物知識は母との山野遊びからだ。

     この行動力の原動力は「思い立ったらすぐに動きます」。大学在学中、「やりたいことは出来ました」。それは外国への留学。コロナ直前の2019年8月、夏休みを使い1ヵ月間、オーストラリアのニューカッスル大学に短期留学、ホームスティしながら外国体験。この留学でも食への関心が増した。「様々な料理方法の食材を食べました。勉強になりました」。

     振り返ると体験のすべてが「女将」への道につながる。小学時代は水泳に取り組み、中学ではバレーボールと陸上・駅伝。高校では一転、書道と茶道、吹奏楽部ではクラリネットを。「茶道は15年ほど続けました。美味しいお菓子が食べられるから、と始めましたが、もともと抹茶が好きでしたから」。
     いまも水泳は毎週1時間ほど泳ぎ、スポーツジムで筋トレやランニングをする。先月の新潟市ハーフマラソンに出場。体力づくり、体形づくり、さらに健康維持と、これもすべて「女将」につながっている。
     「そうですね、30歳までには佐渡に戻ります。彼が佐渡の消防士に入るための準備期間も必要ですから」。経営を引き継ぐと7代目になる。「食にはこだわりたいです。佐渡でしか食べられないものを提供したい。まだまだ知らないことが多く、皆さんから教えて頂いています」。
     何年か後、佐渡の伊藤屋旅館で「萌女将」に会えるだろう。

    ▼バトンタッチします。
    伊藤隆汰さん

    2024年6月29日号

  • 「24時間、命と向き合う」

    伊藤 隆汰さん(2000年生まれ)

     勢いを増し燃え盛る火、初めての火災現場で初めての放水…。消防官になり初体験した現場は、想像を超える過酷さだった。「迫る火の勢いと熱さ、これが現場かと、ちょっと恐怖さえ感じました」。あれから5年、十日町地域消防本部消防官として事故や災害、病気など「命」と向き合う現場に出動し救急活動にあたっている。

     「小さい頃から消防自動車や消防官へのあこがれがあり、十日町地域消防が毎年開く『消防ひろば』には必ず行っていました。はしご車にも乗せてもらいました」。そのあこがれが、さらに具体化したのが映画『252生存者あり』。大災害に見舞われた東京を舞台に「生還」と「救出」の消防レスキュー活動を描いた人間ドラマ。「あれを見て、レスキュー隊員になろうと決めました。あとはその目標に向かってまっしぐらでした」。
     保育園時代に乗せてもらった消防はしご車。入署して3年目、消火訓練で消防はしご車バケットに入り高さ25㍍まで上がり、高所訓練を経験。「実は高い所がちょっと苦手でしたので、高いなぁーと感じながらの訓練でした」。だが、いまは経験を積み、高さへの恐怖心はなく、どんな現場にもひるむことなく臨んでいる。
     地域の高齢化、独り暮らし世帯増加などから救急救命の出動が増加するなか、5年の現場経験から「救急救命士」の重要性を感じている。救急車乗車は「救急資格」を取得しなければ乗れない。入署2年目で資格取得した。救急救命士は乗車資格取得後、さらに5年間の救急経験、あるいは2千時間の救急業務経験など一定条件をクリアしないと資格試験に挑戦できない厳しい国家資格だ。それをめざしている。
     「まだ救急業務の経験年数が足りていないので受験できませんが、必ず目標の救急救命士を取得します」。
     十日町地域消防本部では年間3500件余、1日平均10件余の出動があり、年々増加傾向にある。消防官は24時間勤務後、非番(緊急時は出動)、休日という3日間サイクルが勤務体系。まさに体力と気力、精神力が求められる。一方で風邪の発熱、指先を切ったなど全国的に問題視される「不適切利用」も増加要因になっているといわれる。
     体力づくりはランニングだ。非番や休日で走り込む時は30㌔ほど走る。十日町の国道117号を本町からスタート、小千谷境で折返し、そのまま土市・姿まで行き、本町に引き返すルート。30㌔を超える距離を2時間弱で走る。
     2022年10月には初のフルマラソンに挑戦。「金沢マラソンです。大会3ヵ月ほど前に先輩から、俺が出られなくなったので出てみないかと誘われ、やってみるかと出場を決めました」。初出場ながら2時間50分台で走り切った。いまも1日10㌔ほど走っている。高校時代の陸上部活動がいまに通じる。800㍍、1500㍍に取り組み、3年の時は駅伝で県大会入賞を果たしている。

     今年2月、佐渡出身の萌さんと入籍。今春の新潟ハーフマラソンに一緒に出場。「結構、走るんですよ。今度は2人でフルマラソン出場をめざします」。今秋10月、結婚式を挙げる。「そうですね、来年4月の『佐渡ときマラソン』に2人で出場する予定です」。良きパートナーとの出会いは、目標とする「救急救命士」取得へのモチベーションを高めている。
     数々の現場を体験し、命と向き合う日
    々。悲惨な現場、目の前で命が途絶えていく現場、言葉に表せない数々の惨状。消防官、救急隊員の心身の負荷は計り知れない。
     「すぐには切り替えられない場面もありますが、先輩などと話をして貯めないようにしています。私の場合、ランニングがリセットの場になっています。今後、さらに私たちの出動数は増えていくと思いますが、それが私たちの使命ですから」。

    ▼バトンタッチします。
     栁拓玖さん

    2024年7月6日号

  • 「RSウイルス感染症」への理解を

    新生児、生後3ヵ月までは風邪予防を

    Vol 101

     最近このコラムを毎回切り抜いてとっています、とお声がけいただきました。本当にありがとうございます。今日は、新しい妊婦さん対象の予防接種のお知らせです。
     現在すでに妊娠中に接種可能なワクチンのある感染症に、インフルエンザ、新型コロナ、百日咳などがありますが、今年1月18日に妊娠中に接種して「新生児及び乳児のRSウイルス感染症の重症化を予防する」ワクチンが登場しました。
     RSウイルスの予防については、今までは重症化リスクのある児(早産児や先天性心疾患など基礎疾患のあるハイリスク児)に対してワクチン接種をしてきました。しかし、重症化リスクは基礎疾患のない正期産の子どもにもあり、しかも近年は流行の季節性もなく、現在RSウイルス感染症は乳児に限らず親にとっても極めて重要な疾病です。
     RSウイルス感染症は5類感染症に指定されており、生後1歳までに50%以上が、2歳までにほぼ100%が初感染しますが、症状は熱や倦怠感などの風邪症状から上気道症状(鼻閉、鼻水、くしゃみ)、下気道症状(咳、呼吸困難、喘鳴)まで様々です。
     成人にとっては鼻がグズグズする程度で済むことがほとんどですが、特に生後6ヵ月未満では重症化しやすく、肺炎、無呼吸、急性脳症なども引き起こします。
     生後間もなくRSウィルスに感染した子どもは、その後に気管支喘息を生じるとの関係性も指摘されています。日本では、年間12~14万人の2歳未満の乳幼児がRSウイルス感染症と診断され、そのうち3万人が人院を要し、入院発生数は生後1~2ヵ月時点でピークとなり、人工呼吸器管理となる場合も多々あります。また、対症療法が基本で有効な治療薬はありません。そのため予防が重要です。
     このワクチンを妊婦に接種することにより、RSウイルスに対する抗体が母体で作られ、そして抗体が胎盤を通じて胎児に移行することで、新生児および乳児におけるRSウイルスを原因とする下気道疾患を防ぐことができます。妊娠24週から36週の妊婦に1回筋肉内接種をします。ワクチンの効果は生後6ヵ月まで続きます。
     残念ながら今はこのワクチンに対して公費補助が無いため、希望者に限り自費で接種する形となります。妊婦さんへの副反応としては、注射部位の疼痛くらいで、重篤な全身症状などはないとのことです。
     新型コロナ感染症が2類から5類になり、今年は春から子どもたちを中心に様々な感染症が流行りました。そのうちの一つにRSウイルス感染症もありましたが、生後間もない赤ちゃんたちが今年は多く感染し、重症化して入院したという話を聞きました。
     まず赤ちゃんが家族にいらっしゃるご家庭の方は、重症化のリスクが高い生後3ヵ月になるまで赤ちゃんには風邪を引かせないように慎重になってください。 
     大人のちょっとした風邪症状でも赤ちゃんにとっては命取りになる感染症かもしれません。上にお子さんのいる方は特に注意が必要です。心配な時はどうぞ妊娠中のRSワクチン接種をお考え下さいね。(たかき医院・仲栄美子院長)

    2024年7月6日号

  • 柏崎刈羽原発再稼働は県民投票で

    三度、原発問題

    斎木 文夫 (年金生活者)

     6月23日は、本紙前号の本欄で松崎さんが書いていたように、「沖縄慰霊の日」です。
     今年の6月23日、私が代表を務める十日町・津南地域自治研究所では「第20回エネルギー問題連続講座」を開催しました。福島原発事故の現地調査報告会、柏崎刈羽原発再稼働を考える講演会、福島の写真展の3点セット。詳細は本紙前号をご覧になってください。
     講演会講師・大野隆一郎氏は、①柏崎刈羽原発は軟弱地盤の上に建っていること、②柏崎刈羽原発の核のごみはすでに満杯に近いこと、③日本は地震国、地下水が豊富で、核のごみの地層処分に適した土地はないこと、④能登半島地震でも見られた電力会社の隠ぺい体質を挙げ、柏崎刈羽原発は再稼働させるべきではないと訴えました。
     講演後、会場から「このような学習会も大事だが、原発を再稼働させない運動をする段階ではないか」とのお声をいただきました。私は「原発の危険性や問題点について学ぶ機会を提供するのが当研究所の役割」とお答えしました。
     歯切れの悪い答えに、当研究所の小林理事が「十日町市まちづくり基本条例はそうした運動の武器になるので、活用してほしい」とフォローしてくれました。皆さまもこの条例をぜひお読みになってください。議員さん、使えますよ。
     花角知事は、柏崎刈羽原発を稼働するかどうかの判断にあたり「県民の信を問う」と繰り返し、その手法については明らかにしていません。
     「県議会で決めれば」という人は、福島原発の過酷事故から何を学んだのでしょうか。出直し県知事選は、党派性や人格などが混じって、純粋に原発再稼働の是非を問うことにはなりません。
     大野氏は、東北電力巻原発を止めた旧・巻町の住民投票を例に、「県民投票」を提案されました。私も同意見です。
     4月に福島県楢葉町の宝鏡寺を訪ねました。寺の境内には「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」があり、世界の原子力災害の資料が展示されています。
     入口に貼られた短冊に目が留まりました。「這うことも/できなくなったが/手にはまだ/平和を守る/一票がある」。この歌を残したのは八坂スミさん。1982年、90歳のときの歌です。
     運動には色々な形があります。投票も大切な意思表示であり、闘いです。
    私たちは、県民投票の実現に向けて、反原発運動に「進み切れない」方々の背中を押す活動を続けていきたいと思います。

    2024年7月6日号

  • マツブサとチョウセンゴミシ

    中沢 英正(県自然観察保護員)

     どちらもマツブサ科の蔓性の樹木である。種子の他に、地下茎を這わせて繁殖する。
     出会いはいつも深山だが、苗場山麓では超がつくほどの希少種だ。
     見つかるのは若木が多く、蔓を伸ばして絡みついているものは少ない。花を咲かせる株など尚更だ。
     花期は6~7月で、雌花と雄花があり、別々の株につく。雄株の方が多いが、雌雄同株を見かけたこともある。同株で性転換するとも言われているが…。(写真はマツブサ雄株・左、チョウセンゴミシ雌株・右)。
     花は似ているが、房状に成長する果実の色は全く違ってくる。マツブサは青黒色に、チョウセンゴミシは赤色に熟すのだ。
     蔓や果実には薬効があることが知られている。茶や入浴剤として利用すれば、血行促進、強壮などの作用がある。
     名は、蔓に松脂のような匂いがあることからと、朝鮮から種子を輸入し、果実に甘、苦など5つの味があること(五味子)から。

    2024年7月6日号

  • 都市型BBQ「全国100店舗めざす」

    津南町・タイシステム 清水太志社長、スーパー「ロピア」連携で

     「住んでいるのは雪国、勤務地は都市部。この地に拠点を置きながら、都市で稼ぐ。ひとつの働き方の提案でもあるかな」。都市型バーベキュー(BBQ)事業の全国展開を始めているタイシステム(本社・津南町)の清水太志社長(47)は話す。昨期の売上高は約11億円で過去最高。さらに食品スーパー『ロピア』を展開するOIC(オイシー)グループ(本社・川崎市)と連携。5月末にタイシステムは同社の子会社となった。都市部出店が多いロピアにBBQ場を併設し、店舗で買った厳選食材をすぐその場で楽しめるサービスを来春スタートする計画。「単独でもやっていけたが、ロピアの理念に共感した。大きな資本力を得ることでさらに事業展開を進めたい。全国100店舗、売上100億円の企業をめざす」と目標を話している。

    2024年7月6日号

  • 桂公園こどもランド・福原久八郎事務局長

    子育て世代、応援する公園に

     窓を開けると、目の前が公園。休日には子どもと楽しそうに過ごす子育て世代が大勢集まってくる。「この世代が地域に根ざして増えてくれることが一番。そのための公園にしたい」。廃墟同然だった桂交通公園を年間2万人が訪れる公園によみがえらせたNPO法人桂公園こどもランドの福原久八郎事務局長(68)。 公園の目玉は園内を走るゴーカートやラジコンカーで、今では目にすることが少なくなった懐かしい遊具もある。先月中旬には子どもたちに人気の水遊び広場を設けた。NPOとして新たな歩みを始めて10年。子育て世代に密着した運営でこれまで三度の全国表彰を受けている。「経営は厳しいが、これからも子育て世代に愛される公園にしていきたい」。思いは尽きない。

    2024年7月6日号

  • 大地の芸術祭、メッセージを感じる

     アートの力を信じたい。先駆けの大地の芸術祭は回を重ねるごとに関心を集め、いまや全国300以上の芸術祭的なアートイベントがある。その本家本元、大地の芸術祭は来週13日、第9回展の開幕だ。本紙先週号のトップ、芸術祭・総合ディレクターの北川フラム氏の言葉が、9回展までの歴史を端的に物語っている。『…バスで空気を運んでいると言われた時代から、ここまで来た…』。第1回展の2000年以降、2回、3回と重ねるまでは、作品巡りバスは「空気を運んでいる」と揶揄された。それがコロナ禍の厳しい時期を経験しつつも、大地の芸術祭は世界ブランドに育ち、開幕の9回展では外国から多くの来訪者が、ここ妻有をめざすだろう。「アートの力」を感じる。
     注目はロシア侵攻が続くウクライナの作家たちの出展だろう。アートの力は、「過疎と過密」、「都市と山間地」のキーワードから、2000年の第1回展から変わらない理念『人間は自然に内包される』が、いま世界で起こる紛争につながり、そこには「平和」への強いメッセージが込められ、越後妻有から世界に向けて、さらに強く打ち出される9回展になるだろう。
     87日間の大地の芸術祭。アーティスト275組は41の国と地域から妻有で作品展開する。野外アート、空き家や閉校舎活用のアートなど、その作品が発するメッセージを、目で、耳で、皮膚で、嗅覚で、心で、まさに5感で体感してほしい。その地に居る自分と、その地に存在する作品、この関係性こそ越後妻有からのメッセージだろう。 
     「ここはどこ、私はだれ、どこから来て、どこへ行くのか…」、その先の視野にウクライナがあり、ガザがあり、アフリカがある。
     来訪者数が芸術祭の成否になる時代ではない、と考える。最終日11月10日、ここ越後妻有から世界に向け、どんなメッセージが発せられるのか。

    2024年7月6日号

  • 「21世紀の美術、妻有から」

    第9回大地の芸術祭 来月13日開幕

    311作品、ウクライナウィーク、秋山郷アート関心

     「日本の文化は極東の島国であり、吹き溜まりのような場所に世界からいろんなモノが入って来たから面白い。21世紀の美術は越後妻有から始まっているかもしれないと言われている。関わった地域の方、先人の努力、手伝ってくれる方の繋がりで、バスで空気を運んでいると言われた時代からここまで来た」。
     大地の芸術祭を構想段階から30年余、牽引し続けてきた北川フラム総合ディレクターはこれまでを振り返り、そしてこれから始まる第9回展(7月13日~11月10日のうち87日間)のメイン作品を参集の関係者170人余に説明。「歓待する美術」「感幸」「五感全開で楽しめる芸術」などキーワードを語った。

    2024年6月29日号

  • 核ごみ処分適地「ない」

    「脱原発が一番の安全策」と大野隆一郎氏

    十日町・津南地域 自治研究所講座

     再稼働をめざす動きが加速化している柏崎刈羽原発。今月13日は7号機で燃料装填に伴う検査を全て終えたと東京電力は発表。原子炉機動の準備を進めるが、「地元同意」が再稼働の最大の焦点。柏崎市や刈羽村は再稼働に前向きな意向を示すが、県は複合災害時の避難に懸念を示しており、花角知事は「県民に信を問う」姿勢を崩していない。

    2024年6月29日号

  • 『女将への道、高まる食への関心』

    伊藤 萌さん(2000年生まれ)

     運命は、どう動くか分からない。長野・松本市で大学生活を送るが、コロナ禍でオンライン授業が多くなり、そんな時、「なにか違う」と感じた。佐渡にある実家が営む旅館を手伝うなかで、父がSNSで懐石料理店の人材募集を見つけ「こんなのがあるよ」と見せられ、行こうと即決。その地が十日町市。
     あれから2年、この地で運命の出会い。今年2月、地元の消防士と結婚。それも「初めての地でしたから、飲み友だちがほしい…」と、妻有地域限定のマッチングアプリに登録、そこで出会ったのが消防士。とんとんと、結婚にまで至った。

     佐渡・真野湾に面した地で両親が営む『伊藤屋旅館』。父で6代目の老舗宿だ。「小さい頃から海に潜っていました。仕入れに行く父や、山野に行く母にいつもついて行き、海も山も好きになり、特に食べることが大好きで、それは今も変わっていません」。
     幼少期から「女将」として動き回る母の姿を見て育ち、「かっこいい。私も女将になりたい」と小学生の頃から口に出し始めた。その思いは、中学、高校、そして大学に至るなかで、次第に「将来的な予感」となり、料理の世界に入り、それは「確信」に変わった。その決定打が十日町市での出会いだった。
     飲み友だちを求めた結果が、人生のパートナーに至った。「私は条件を出しました。食で好き嫌いが全く無い人、一緒にコーヒーとお酒を飲んでくれる人」。でも、「実は私は結婚できないんじゃないかと思っていました。我が強いので。私の意見を受け入れてくれ、どんな時も支えになると約束してくれました。それに誠実さでしょうか」。これこそ運命の導きか。

     「食」への探求心は人一倍強い。「美味しいものが好き過ぎて、食材への関心がいまも高まっています」。特に「きのこ」。佐渡には松林があり「高校時代、よく松茸を採っていましたし、世界三大きのこのトリュフ、ポルチーニなども佐渡では採れます」。当然きのこ料理にも関心深い。昨年12月の誕生日祝いには、結婚前の彼に分厚い『きのこ図鑑』をリクエスト、念願の大図鑑を手に入れた。きのこは今の仕事にも通じる。十日町から八箇峠越えで六日町の雪国まいたけに通勤している。
     「佐渡は食材が豊かです。海のもの、山のもの、さらにフルーツも豊富で、りんご・みかん・ぶどう・さくらんぼなど、いろいろ採れます」。父は旅館と併設の「レストランこさど」のシェフでありパティシエとしてスイーツも担当する。「十日町も山菜など豊富ですね。この時期もきのこが出ますよ。ウスヒラタケなど。休日には山へよく行きます」。植物知識は母との山野遊びからだ。

     この行動力の原動力は「思い立ったらすぐに動きます」。大学在学中、「やりたいことは出来ました」。それは外国への留学。コロナ直前の2019年8月、夏休みを使い1ヵ月間、オーストラリアのニューカッスル大学に短期留学、ホームスティしながら外国体験。この留学でも食への関心が増した。「様々な料理方法の食材を食べました。勉強になりました」。

     振り返ると体験のすべてが「女将」への道につながる。小学時代は水泳に取り組み、中学ではバレーボールと陸上・駅伝。高校では一転、書道と茶道、吹奏楽部ではクラリネットを。「茶道は15年ほど続けました。美味しいお菓子が食べられるから、と始めましたが、もともと抹茶が好きでしたから」。
     いまも水泳は毎週1時間ほど泳ぎ、スポーツジムで筋トレやランニングをする。先月の新潟市ハーフマラソンに出場。体力づくり、体形づくり、さらに健康維持と、これもすべて「女将」につながっている。
     「そうですね、30歳までには佐渡に戻ります。彼が佐渡の消防士に入るための準備期間も必要ですから」。経営を引き継ぐと7代目になる。「食にはこだわりたいです。佐渡でしか食べられないものを提供したい。まだまだ知らないことが多く、皆さんから教えて頂いています」。
     何年か後、佐渡の伊藤屋旅館で「萌女将」に会えるだろう。

    ▼バトンタッチします。
    伊藤隆汰さん

    2024年6月29日号