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オピニオン一覧

  • 蕎麦と同じ「焙煎したて、挽きたて、淹れたて」

    コーヒー豆との出会い

    村山 朗 (会社員)

     今回はごく個人的なことを書きたいと思います。読者の皆さんは普段どんな飲み物を飲まれていますか。緑茶派? 紅茶派?コーヒー派? 様々だと思います。筆者はコーヒー派です。とはいえ、コーヒーに特別なこだわりがあったわけではなく、 長年毎日インスタントコーヒーを飲んでいました。  
     ところがある時、友人からコーヒー豆が届き、はて面倒だなぁ、と思いつつせっかくの好意を無にしちゃいかんと、必要最低限のコーヒーミルとサーバー、ドリッパー、フィルターペーパーを購入しました。
     無手勝流で淹れ方もいい加減だったのですが、明らかに香りや後味が違いました。それまで飲んでいたのがインスタントでしたから、とにかく香りのしない後味が舌に残るコーヒー(喫茶店のコーヒーでもそういうコーヒーが多いと思いませんか?)だったわけで、まあコーヒーとはこんなもんだと思っていました。 
     最低限の器具でしたが、このままではもったいないと思い、市内にあるコーヒー豆の専門店のドアを開け、あれこれ尋ねながら豆を購入しました。自分で挽いて淹れる。明らかに後味のスッキリしたうまいコーヒーに仕上がります。
     これをきっかけにネットで調べるとコーヒー豆を販売するサイトがたくさんありました。
     日本では缶コーヒーからコンビニのコーヒーまでさまざまな飲み方をしますが、世界でも指折りのコーヒー消費国で、アメリカ、ブラジル、ドイツに次いで第4位だそうです。日本ではほかの国に比べ自分で淹れて飲む人口が多いそうなので、豆専門の店が成り立っているのでしょうね。
     ネットには割安なさまざまなお試しセットがあって、飲み始めたころにはそれらを利用していろんな味を試しました。産地(国)や農場、豆屋さんのブレンドの仕方によって本当にたくさんの味や香りがあります。値段もピンからキリまですが、自分の財布と相談してそれほど高くない豆で楽しんでいます。
     蕎麦では挽きたて、打ちたて、ゆでたてが最良とされますが、コーヒーも同じです。高い豆でなくても、焙煎したて(小規模な豆屋さんなら焙煎したてを送ってくれます)、挽きたて、淹れたてであれば本当にうまいコーヒーが自宅で楽しめます。
     毎朝少しの時間をおごって、豆を挽いて淹れますが、豆を取り出したときや挽きたての香り、後味の良さ、一回分の外食費程度でひと月幸せな気分にさせてくれます。何より嬉しいのが、我が家の山の神が喜んでくれること(笑)。

    2023年11月18日号

  • 日本初の和歌に『妻』の文字が

    「越後国」と「出雲国」

    清水裕理 (経済地理学博士)

     仕事で出雲国(島根県)に来ており、越後国(新潟県)との共通点を感じます。出雲国では、十月を神無月ではなく神在月と呼び、全国の神様が集まり、誰と誰のご縁を結ぶかの相談が行われるとされます。
     旧暦の10月10日である11月中旬に出雲大社で神迎祭が行われ、出雲大社の西側にある稲佐の浜に全国の神様が夜に到着され、その浜で神主さんがお迎えの神事を執り行います。その後、出雲大社の中に神様のお泊り処があり、そこにご案内し、翌朝に神様方は、相談ごとを行う場所に通われます。その会議室は意外にも出雲大社の外にあり、まちの人々は、神様が相談ごとをされる期間は、音を出さないように静かに過ごすのだそうです。
    ご相談ごとが終わると酒宴が開かれ、その会場はここ、二次会はここと場所が決まっています。宴会が楽しくて居残りをされる神様もいらっしゃるとの余話も。
     神様の酒宴から発祥しているとされる島根のお酒ですが、飲んでみると、なんとなく新潟のお酒とテイストが似ているような感じがします。
     お米も、東日本が魚沼米ならば、西日本では島根県の仁多米(にたまい)が断トツのブランド米です。地形は、両県とも、日本海に面し、内陸部に入ると山や森林が深くなる点が共通しています。
    出雲国の山では、かつて、たたら製鉄が盛んに行われていました。真砂をとり、炭を作り、今でいう工場で鉄がつくられました。その風景が映画「千と千尋の神隠し」で描かれています。
     現在は、刀匠が日本刀をつくる際に必要な玉鋼(たまはがね)を得るために、たたら製鉄の技が受け継がれています。
     松江市の南に位置する奥出雲と呼ばれる地域にたたら製鉄の跡が残っており、山を削って真砂をとった場所が今は棚田となりお米づくりが盛んです。鉄師と呼ばれた方々が残した住居や庭園は見事で、最近のテレビドラマ「VIVANT」の舞台となりました。
     近年は、周辺の森林の木材を活用し、建設用合板の製造が行われています。木材は海外産を使うことの多い時期があったようですが、ここ10年で国内産の使用が増えたそうです。

    八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を

     奥出雲で八岐大蛇(やわたのおろち)を退治したスサノオノミコトが読んだ日本で初めての和歌とされています(妻有の『妻』の文字が入っています)。
     出雲国で神話を身近に感じながら、越後国にもスサノオのような力持ちがいそうと思いました。

    2023年11月11日号

  • 本気度ない東京電力、知事は命を守れるのか

    処理水放出と原発再稼働

    藤ノ木信子 (清津川に清流を取り戻す会)

     福島第1原発の処理水海洋放出が始まって2ヵ月になる。この間、海外の反応は放出に反対する中国、水産物輸入規制を発表したロシア、それにアメリカでも沿岸で捕れる魚などから放射性物質が見つかれば、莫大な損害賠償問題になると報道している。海は繋がっているから当然だ。
     私が処理水放出について問題視しているのは2点、一つ目は原子炉建屋に流れ込む地下水を止めることを先にしないと、いつまでたっても汚染水は減らない(処理水放出は終わりがない)ということ。事故から12年、汚染水は増え続けタンクは1000基を超える。流れ込む地下水を止める壁について東電は「今、検討を始めようとしている段階」(2020年検討会議事録)とか、「恒久対策について、しっかり検討してまいります」(2021年)とか、「少し検討を始めていますけど、いつ、何をというところまで、まだちょっと」(2022年)、そして今年の検討会で今後の見通しについて、止水壁は2028年以降のイメージしかない。これって全くやる気なしの引き延ばし?増えたら捨てればいいという一番安価な方法を選んだとしか思えない。
     放出して汚染水が減れば廃炉が進んだとするのだろうか? 原発から出た放射性物質はまた無主物だと言い張るのだろうか?
     二つ目は関係者との約束を果たしたと言えるのかということ。政府と東電は2015年、福島県漁連に「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分もしない」と約束している。今回の放出はこの約束を反故にするもので、地元以外にも北海道のホタテなど全国の漁業に影響が及んでいる。政府の決定通り実行して東電は漁業者への責任をはたせるのか。
     2017年、原子力規制委員会は東電に対して、7つの論点を提示した。その1番目が「福島第一原発の廃炉を主体的に取り組み、やり切る覚悟と実績を示すことができない事業者に、柏崎刈羽原発を運転する資格はない」というもの。今回の海洋放出を見るだけでもとてもこの組織に世界最大規模の原発を稼働させることはできない。
     6月16日、福島第1原発の処理水海洋放出について、国などに再考を求める議員発議の意見書を賛成多数で可決した津南町議会に敬意を表したい。柏崎刈羽原発の30㌔圏内には十日町市も含め44万人が暮らしている。花角知事は3つの検証(事故原因・健康、生活への影響・避難の方法)について「議論を進めていく際、重要な材料となる」と述べている。
     命を守るためにはっきりと意思表示する時ではないだろうか?

    2023年10月28日号

  • 議会を押し上げる「住民力」

    津南町議選に思う

    斎木 文夫 (年金生活者)

     津南町議選が明日22日に投開票となる。
     今回は定数12に対し新人3人を含む16人が出馬の激戦である。最近の地方議会の課題は「議会不信」と「なり手不足」の悪循環。定数削減で悪循環を断ち切ることができるか。
     議会不信には理由がある。住民の生活と意識が多様化してきている。で、有権者と、議員の属性(住所、職業、性別、年齢など)との違いが大きくなって民意が反映できなくなってきているのだ。
     だが、議会不信だの、だから選挙に行かないだのと言っている間に、人口減少、財政のひっ迫はどんどん進んできた。議会の役割は今まで以上に大きくなっている。
     議会は、利益配分でなく、何をやめるか、何を後回しにするか、「不利益の配分」をも決めなければならない。ある属性の利益代表的な候補者に決める力があるか。
     ここは、住民の理解を得ながら「不利益の配分」をのみ込ませることができる、頭が良くて、人望がある人を選んでもらいたい。そして、結果として有権者の多様性を反映した議会構成になればけっこうなことだ。
     本紙編集部は、女性議員の割合に注目しているようだ。だが、女性議員がすべて女性の味方とは限らない。分かりやすい例を挙げれば、暴言、妄言を吐き続ける自民党所属の杉田水脈衆議院議員である。その辺の見極めも必要だろう。
     本紙前号の社説は「じ
    っくり聞き、読み、感じて、投票所に行ってほしい」と締めくくっている。そのとおりだと思う。
     これは新しい議会の話になるが、有権者は議会改革に注目している。定数や議員報酬の見直しや、休日・夜間開催はよくある話だ。そのほか、兼職制度を緩和したり、年に4回の定例会だけでなく一年中活動できるように通年会期制にし、選挙運動もバンバンやれるように緩和したり…。
     全国町村議会議長会/編『議会力アップのための活動例』に25町村議会の事例が紹介されている。参考になるので、ネット検索してほしい。
     ただ、議会改革は手段に過ぎない。政策決定がどう変わるかが重要だ。議会は、①地方分権改革によって権限が拡大された首長のチェック機関であり、②住民が望む政策を作り出す機関でなければならない。
     行政監視、政策立案のためには住民との協働は欠かせない。そんな議会にするために、本当に求められているのは、「議員力」でなく「住民力」なのかもしれない。

    2023年10月21日号

  • やってはいけない事を全部やってしまった

    ざわつく電話DE詐欺

    松崎 房子 (元ゆずり葉編集委員)

     すでに1ヵ月以上も経ったのに、未だにザラリとする。
     ショートメールが入った。「電話料金の事でご連絡があります」とある。
    寄りにもよって、家計簿を広げ料金プランを変更した効果は上がっているのか? 疑問を感じていた所だった。思わず連絡先としてある番号に電話してしまった。
     即、折り返しかかってきた番号は東京管区の番号で数字自体もぜんぜん違う。「先程の番号と全然違いますがどういう事でしょうか?」「大丈夫ですよ。担当部署の者がご説明しますので」「そうなんですか?」「お客様が以前に契約された、サイトの料金が1年間未払いになっています。早急に必要料金9万9600円を振り込んでください」「そんな筈はありません。私は未だにスマホに不慣れで、サイトを契約したりは出来ません。した覚えも絶対にありません」「スマホからでなくても、PCからも出来るのです」「なんと言われても契約してはいませんから、お支払いはしません」「たまに誤認契約という事もあるので調べてみます」。
     しばらく時間を置いてまたかかってきた。「やはり誤認契約であることが判りました」「そうでしょう。絶対に契約した覚えが無いもの。ではこれでよろしいですね」「そうですが、当社のシステム上、一応全額御払い頂いて2日後に返金致しますので」「そんなの可笑しいではありませんか。払わなければどうなるのですか? こんな電話自体変じゃありません?」
    気のせいか相手の態度が変わった気がした。「払わなくても一向に構いませんよ。延滞金やら金利やらが加算されて、もっと高額の金額が引き落とされますから…」。あれこれやり取りが続いていい加減参ってしまった。
     前号の村山さんの原稿にあった、カタカナ語・和製英語? アルファベットの並び、しかも短縮? ますます混乱した。その時、自分でも変化が起きた。この金額で済むのなら、振り込んでもう終わりにしたい。高額をタンス預金していらっしゃる方もおいでらしいが、こんな気持ちかな?
    少し前に聞いた妹の対処方法が思い出された。『何が何でも本人にしか渡しません』本人が動けないので代わりの者が行きますから。『場所を教えて下さい。こちらから出向きますから』、事なきを得たとか。
     息子に連絡がついて、やっと件の電話を切った。散々息子に叱られたが、とにもかくにもセーフだった。
     知らない番号には出るな。ショートメールはやたらに開けるな。電話に出てしまったら会話をするな。
     やってはいけない事を全部やってしまった。

    2023年10月14日号

  • お役所はカタカナ語がお好き?

    氾濫するカタカナ・和製英語

    村山 朗 (会社員)

     日頃、新聞やニュースなどで氾濫する外来語やアルファベットの略語を目にするたびに、イラっとしている本紙の読者は少なくないのではないでしょうか。先日の新聞に文化庁の国語世論調査の結果が記事になっていました。それによると、「DX」「SNS」「AED」などの略語に85%の人が、意味が分からず困ることがある、と答えています。そうであっても好ましいと感じる人は全世代で45%。世代別にみると10代が76%、70歳以上では27%と世代間で大きな差がついています。好ましくないと思う人が50%を超えているので、多少ホッとしますが。 
     SNSはソーシャル・ネットワーキング・サービスの頭文字をつなげたものであろうことは想像できますが、DXがなぜデジタル・トランスフォーメーションの略なのかよくわかりません。Dがデジタルの頭文字で、次がトランスフォーメーションのTではなくてXなのはどういうわけでしょうか。AEDに至っては謎です。(自分で調べろ、ですね)
     最近の新聞の紙面をざっとながめてもTOB、PFOS、ATP、LRT、PB、DB、OP、DBS日本版、リスキリング、エシカル、ジェンダーギャップ、フレイル、プリフレイル、オーバーツーリズム、インボイス、ステルスマーケティング、ハラスメント、ロードプライシング、リテラシー、レジリエンス、マルウェア、アイデンティティー、ダイバーシティー、ソバーキュリアスと枚挙にいとまがありません。
     何の略か、どういう意味か、と問われると困る言葉ばかりです。文脈からなんとなく、と答えるしかありません。新聞をはじめとして身の回りには略語、和製英語、外来語があふれています。確かに近年どっと日本に入ってきた新しい概念で、日本語訳が追い付いていないものもあるので、仕方がない面もありますが、それにしてもあまりにも多すぎませんか? 立派な日本語があるのにどうして言い換えるのか、理解に苦しむ言葉も多いです。 
     マイナンバーなどは、英語のように聞こえますが、堂々たる和製英語と聞きます。個人番号じゃダメなのでしょうか? それをさらにマイナと略すことに至っては、どうなってラン? お役所は本当にカタカナ語がお好きなようで、10月の祝日も体育の日からスポーツの日に変えてしまいました。これには本当に腹が立ちました。
     外来語が日本語の語彙を豊かにする面があることに異論はありません。でも何でもかんでもカタカナ語にしたがる現代の風潮には、どうにも納得がゆきません。

    2023年10月7日号

  • 地域課題、セーフティ機能や継続の芽を

    コロナ後の夏まつりの復活

    清水裕理 (経済地理学博士)

     日の入りが早くなり、夏の終わり、秋の始まりを感じるこの頃です。今夏は特別な猛暑で、それまでとは一線を越え、30度あるいは35度を超えても驚かなくなるのは初めてでした。
     お米は、山梨県では収穫時期が1週間早くなる程度の影響でしたが、妻有地域の棚田は、災害級の高温障害が深刻と聞き、心配をしています。
     そして、今年は、コロナの行動制限が緩和されて初めての夏ということで、地元の夏まつりが復活するかどうかが気になりました。全国の各地域の結果をみると、今まで通りに復活、縮小して復活、中止のいずれかに分かれたように思います。
    私の田舎の集落では、夏まつりが今年から中止となってしまいました。アンケートにより、中止を希望する地元住民の方が多かったとのことです。 夏祭りは、家族を含めて約100人が集まる規模で、会費を払い、多くのご馳走と飲み物、司会が盛り上げるカラオケ大会、盆踊りやよさこい踊り、子供のじゃんけん大会など楽しかったのですが、準備は大変だったと思います。私は普段は東京にいて時々しか戻らないため、準備には参加していませんでした。
     コロナをきっかけに、中止の話が加速したことは否めず、個人的には、年1回、地元住民が集まって顔を合わせて話をする機会がなくなってしまい残念です。
     まちづくりの視点からは、例えば、地域公共交通の維持についてそうであるように、集落単位で協議会が開かれ、そこでの議論がベースとなり、また、運営主体もそこから誕生したりして、今後のあり方が決められる傾向にあります。
     私の知る事例では、福島県会津地域でそのような活動が活発で、国もその方向に、地域のことは地域で責任を持って、という意味合いも含めた政策になってきています。
     今後、交通問題に限らず、集落という単位をベースとして地域課題を把握し解決していくケースが多くなってくると思いますが、一方現実には、話は少し飛びますが、今まで集落に近い単位で活動していた郵便局や農協や交番などの拠点が減るニュースが増えており、その動きがもしも大きく進んでしまうなら、せっかく現場を大切にして築いてきたものがなくなってしまう…その動きはコロナ後に加速しているようにも感じられ、色々と事情があると思いつつ、複雑な気持ちです。
     ここにきての急な変化というものは不安を生じさせ、もしもがあったとしても、そうならないようなセーフティ機能や継続的な取り組みの芽に受け継がれれば…と思います。

    2023年9月30日号

  • 思い出ポロポロ、積もり上がるチリのように

    『旅宿 もっきりや』

    秋山郷山房もっきりや・長谷川 好文

     先日の連休、助っ人の方々が現れ引っ越しを順々と続けてくれました。長年溜め込んだ「いろいろな物」を捨てられずにいたせいで、とにかく荷物が多すぎるわけで、そうなると、ここでの引っ越しは私のような年寄りでは到底無理だと気付くことになるのです。
     そんな時に、2組の援軍でした。ひと組は引っ越しを手伝っていただいて、もうひと組のご婦人は2人して『旅宿 もっきりや』の壁面に、べんがら色のキシリトール塗料を塗ってくれたのでした。 
     なんという幸運と思いながら、連休が去った今、思い出したようにこの原稿を書き出しました。
     このひと月、少しずつ荷物を移動させて、だんだん山のように積み重ねられた私の思い出の書籍や映像を眺めていると、長年のチリや埃にまぎれて、どうもいけません。何だか雑然と散らばって、ほっぽりだされているようで、今日までの月日が何だかとてつもなく馬鹿げて埃くさいように感じてしまいます。
     いや80億にも増えた地球上の人間のひとりとして、私などは全く小さなゴミなのですが、それでもそう簡単には納得してはいけないとも、その書籍や額から顔を覗かせているそれらの寂しげな表情を感じます。積み上げられつつある荷物の山を眺めて肩を落として、ため息ばかりついてもいられないわけで、どうにか起死回生の対応をしなくてはいかんと、背を伸ばして荷物の山を眺めるのです。
     時代が変わり、秋山郷の姿も変わりますが、ここで暮らした私の歴史は私の中に残さなければなりません。ひとり者のジイさんが寂しさのあまり寝室の壁に所狭しと貼り付けた、死んでしまった兄や親たち、多くの友人の姿や戦地に引っ張り出されて亡くなり、会うことも出来なかった2人の伯父たちの姿に、毎朝声をかけて過ごした日々は、写真の中でホコリまみれになってしまったけれど、若かった頃、感動した演劇のチラシその一つひとつを貼りながら時間の経過と共に増え続けた私の歴史を探しているのです。 
     だけれども、外されたそれらは25年の間、私を支えたお札のようなものでしかないのだろう。今それらを外しながら自分の身体が、だんだん希薄になっていくようにも感じているのでした。何だか、また生まれた時に戻ってしまって、またゾロ生まれ変わって行く思い出作りのよすがとなって私を助けたり、寂しい時に涙した日々の生活のひとつひとつのシーンを、ホコリと共に思い出して支えられていくのだろうと…感じるのです。
     一枚一枚外していったあとの壁に残ったシミが過ぎてきた時間への哀愁になるのでしょう。そんなこんなを、これからここへ来る若い人たちに一言でも伝えていくことが、これからの私の仕事になりそうです。
     ただゆっくり時間をかけて降り積もる雪のなかで気持を濾過して、願いまして~はとそろばんを弾いてから『旅宿 もっきりや』を改めて始めるかと感じているのです。

    2023年9月23日号

  • 「おかしい」、議論は尽くされているか

    農協の広域合併

    斎木文夫(年金生活者)さん

     9月30日に魚沼各地で農協臨時総代会が開かれる。来年2月に十日町ほか3農協が合併する、その是非を問う会だ。私が代表を務める十日町・津南地域自治研究所は、農協広域合併には様々な問題があると感じ、「農協の広域合併を考えるシンポジウム」を開催した。その発言については2日付本紙に紹介されている。
     シンポ後、たくさんのお声をちょうだいした。その多くが「この合併は組合員のためでなく、農協の都合によるものだ」というものだった。
     十日町農協だけではない。なぜ農協は合併したがるのか。それは、経営が行き詰りつつあるからだ。農家の高齢化・減少と農産物の輸入増加によって農業・農家そのものが弱体化し続けている。そこにマイナス金利政策が続き、金融事業を悪化させた。で、合併して「経営基盤の強化」を図ろうというわけだ。
     では、合併してどうなるのか。よく言われるのがスケールメリット(規模拡大の利点)である。経営の効率化、コストの削減、生産・販売量の増大などが考えられる。十日町農協は「合併を通じて実現をめざすこと」として、①コシヒカリ・園芸農産物の販売強化、②コスト低減と効率化、③サービスの維持と地域活性化への貢献、の3点を挙げている。
     だが、これを本当にどこまでやれるのか。その前に、すでに農業・農家そのものが弱体化している現実に対してどう取り組むのかが見えない。
     合併予定の4農協の経常収支のトップは十日町農協。弱いところだけの足し算の結果は、市町村合併を見れば明らかだ。
    金融事業が盛り返すあてもない中、農協が生き残るためには、本業である農業関連事業の収益を改善するしかない。ビジョンのない支店の統廃合や職員削減だけの合併では、リストラ→サービス低下→農協離れの悪循環を生むだろう。そして、更なる大合併に突き進むことになるだろう。
     組合員を忘れ、農協組織とそこによりかかる人たちを守る広域合併は、財界と政府が望む農協つぶしに手を貸すものだ。
    シンポの後段、会場から「問題は今の農政にある。農協も農家も国の農政のいいなりだ。そのことが農協と農業をダメにした」という指摘があった。それは正しいと思う。
     ただ、たった今「広域合併をどうする」が問われている。「合併は4年間の議論の結果だ」と言う方もあろうが、少しでも「おかしい」と考える方は声を上げるべきだ。遅すぎることはない。

    2023年9月9日号

  • 蕎麦と同じ「焙煎したて、挽きたて、淹れたて」

    コーヒー豆との出会い

    村山 朗 (会社員)

     今回はごく個人的なことを書きたいと思います。読者の皆さんは普段どんな飲み物を飲まれていますか。緑茶派? 紅茶派?コーヒー派? 様々だと思います。筆者はコーヒー派です。とはいえ、コーヒーに特別なこだわりがあったわけではなく、 長年毎日インスタントコーヒーを飲んでいました。  
     ところがある時、友人からコーヒー豆が届き、はて面倒だなぁ、と思いつつせっかくの好意を無にしちゃいかんと、必要最低限のコーヒーミルとサーバー、ドリッパー、フィルターペーパーを購入しました。
     無手勝流で淹れ方もいい加減だったのですが、明らかに香りや後味が違いました。それまで飲んでいたのがインスタントでしたから、とにかく香りのしない後味が舌に残るコーヒー(喫茶店のコーヒーでもそういうコーヒーが多いと思いませんか?)だったわけで、まあコーヒーとはこんなもんだと思っていました。 
     最低限の器具でしたが、このままではもったいないと思い、市内にあるコーヒー豆の専門店のドアを開け、あれこれ尋ねながら豆を購入しました。自分で挽いて淹れる。明らかに後味のスッキリしたうまいコーヒーに仕上がります。
     これをきっかけにネットで調べるとコーヒー豆を販売するサイトがたくさんありました。
     日本では缶コーヒーからコンビニのコーヒーまでさまざまな飲み方をしますが、世界でも指折りのコーヒー消費国で、アメリカ、ブラジル、ドイツに次いで第4位だそうです。日本ではほかの国に比べ自分で淹れて飲む人口が多いそうなので、豆専門の店が成り立っているのでしょうね。
     ネットには割安なさまざまなお試しセットがあって、飲み始めたころにはそれらを利用していろんな味を試しました。産地(国)や農場、豆屋さんのブレンドの仕方によって本当にたくさんの味や香りがあります。値段もピンからキリまですが、自分の財布と相談してそれほど高くない豆で楽しんでいます。
     蕎麦では挽きたて、打ちたて、ゆでたてが最良とされますが、コーヒーも同じです。高い豆でなくても、焙煎したて(小規模な豆屋さんなら焙煎したてを送ってくれます)、挽きたて、淹れたてであれば本当にうまいコーヒーが自宅で楽しめます。
     毎朝少しの時間をおごって、豆を挽いて淹れますが、豆を取り出したときや挽きたての香り、後味の良さ、一回分の外食費程度でひと月幸せな気分にさせてくれます。何より嬉しいのが、我が家の山の神が喜んでくれること(笑)。

    2023年11月18日号

  • 日本初の和歌に『妻』の文字が

    「越後国」と「出雲国」

    清水裕理 (経済地理学博士)

     仕事で出雲国(島根県)に来ており、越後国(新潟県)との共通点を感じます。出雲国では、十月を神無月ではなく神在月と呼び、全国の神様が集まり、誰と誰のご縁を結ぶかの相談が行われるとされます。
     旧暦の10月10日である11月中旬に出雲大社で神迎祭が行われ、出雲大社の西側にある稲佐の浜に全国の神様が夜に到着され、その浜で神主さんがお迎えの神事を執り行います。その後、出雲大社の中に神様のお泊り処があり、そこにご案内し、翌朝に神様方は、相談ごとを行う場所に通われます。その会議室は意外にも出雲大社の外にあり、まちの人々は、神様が相談ごとをされる期間は、音を出さないように静かに過ごすのだそうです。
    ご相談ごとが終わると酒宴が開かれ、その会場はここ、二次会はここと場所が決まっています。宴会が楽しくて居残りをされる神様もいらっしゃるとの余話も。
     神様の酒宴から発祥しているとされる島根のお酒ですが、飲んでみると、なんとなく新潟のお酒とテイストが似ているような感じがします。
     お米も、東日本が魚沼米ならば、西日本では島根県の仁多米(にたまい)が断トツのブランド米です。地形は、両県とも、日本海に面し、内陸部に入ると山や森林が深くなる点が共通しています。
    出雲国の山では、かつて、たたら製鉄が盛んに行われていました。真砂をとり、炭を作り、今でいう工場で鉄がつくられました。その風景が映画「千と千尋の神隠し」で描かれています。
     現在は、刀匠が日本刀をつくる際に必要な玉鋼(たまはがね)を得るために、たたら製鉄の技が受け継がれています。
     松江市の南に位置する奥出雲と呼ばれる地域にたたら製鉄の跡が残っており、山を削って真砂をとった場所が今は棚田となりお米づくりが盛んです。鉄師と呼ばれた方々が残した住居や庭園は見事で、最近のテレビドラマ「VIVANT」の舞台となりました。
     近年は、周辺の森林の木材を活用し、建設用合板の製造が行われています。木材は海外産を使うことの多い時期があったようですが、ここ10年で国内産の使用が増えたそうです。

    八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を

     奥出雲で八岐大蛇(やわたのおろち)を退治したスサノオノミコトが読んだ日本で初めての和歌とされています(妻有の『妻』の文字が入っています)。
     出雲国で神話を身近に感じながら、越後国にもスサノオのような力持ちがいそうと思いました。

    2023年11月11日号

  • 本気度ない東京電力、知事は命を守れるのか

    処理水放出と原発再稼働

    藤ノ木信子 (清津川に清流を取り戻す会)

     福島第1原発の処理水海洋放出が始まって2ヵ月になる。この間、海外の反応は放出に反対する中国、水産物輸入規制を発表したロシア、それにアメリカでも沿岸で捕れる魚などから放射性物質が見つかれば、莫大な損害賠償問題になると報道している。海は繋がっているから当然だ。
     私が処理水放出について問題視しているのは2点、一つ目は原子炉建屋に流れ込む地下水を止めることを先にしないと、いつまでたっても汚染水は減らない(処理水放出は終わりがない)ということ。事故から12年、汚染水は増え続けタンクは1000基を超える。流れ込む地下水を止める壁について東電は「今、検討を始めようとしている段階」(2020年検討会議事録)とか、「恒久対策について、しっかり検討してまいります」(2021年)とか、「少し検討を始めていますけど、いつ、何をというところまで、まだちょっと」(2022年)、そして今年の検討会で今後の見通しについて、止水壁は2028年以降のイメージしかない。これって全くやる気なしの引き延ばし?増えたら捨てればいいという一番安価な方法を選んだとしか思えない。
     放出して汚染水が減れば廃炉が進んだとするのだろうか? 原発から出た放射性物質はまた無主物だと言い張るのだろうか?
     二つ目は関係者との約束を果たしたと言えるのかということ。政府と東電は2015年、福島県漁連に「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分もしない」と約束している。今回の放出はこの約束を反故にするもので、地元以外にも北海道のホタテなど全国の漁業に影響が及んでいる。政府の決定通り実行して東電は漁業者への責任をはたせるのか。
     2017年、原子力規制委員会は東電に対して、7つの論点を提示した。その1番目が「福島第一原発の廃炉を主体的に取り組み、やり切る覚悟と実績を示すことができない事業者に、柏崎刈羽原発を運転する資格はない」というもの。今回の海洋放出を見るだけでもとてもこの組織に世界最大規模の原発を稼働させることはできない。
     6月16日、福島第1原発の処理水海洋放出について、国などに再考を求める議員発議の意見書を賛成多数で可決した津南町議会に敬意を表したい。柏崎刈羽原発の30㌔圏内には十日町市も含め44万人が暮らしている。花角知事は3つの検証(事故原因・健康、生活への影響・避難の方法)について「議論を進めていく際、重要な材料となる」と述べている。
     命を守るためにはっきりと意思表示する時ではないだろうか?

    2023年10月28日号

  • 議会を押し上げる「住民力」

    津南町議選に思う

    斎木 文夫 (年金生活者)

     津南町議選が明日22日に投開票となる。
     今回は定数12に対し新人3人を含む16人が出馬の激戦である。最近の地方議会の課題は「議会不信」と「なり手不足」の悪循環。定数削減で悪循環を断ち切ることができるか。
     議会不信には理由がある。住民の生活と意識が多様化してきている。で、有権者と、議員の属性(住所、職業、性別、年齢など)との違いが大きくなって民意が反映できなくなってきているのだ。
     だが、議会不信だの、だから選挙に行かないだのと言っている間に、人口減少、財政のひっ迫はどんどん進んできた。議会の役割は今まで以上に大きくなっている。
     議会は、利益配分でなく、何をやめるか、何を後回しにするか、「不利益の配分」をも決めなければならない。ある属性の利益代表的な候補者に決める力があるか。
     ここは、住民の理解を得ながら「不利益の配分」をのみ込ませることができる、頭が良くて、人望がある人を選んでもらいたい。そして、結果として有権者の多様性を反映した議会構成になればけっこうなことだ。
     本紙編集部は、女性議員の割合に注目しているようだ。だが、女性議員がすべて女性の味方とは限らない。分かりやすい例を挙げれば、暴言、妄言を吐き続ける自民党所属の杉田水脈衆議院議員である。その辺の見極めも必要だろう。
     本紙前号の社説は「じ
    っくり聞き、読み、感じて、投票所に行ってほしい」と締めくくっている。そのとおりだと思う。
     これは新しい議会の話になるが、有権者は議会改革に注目している。定数や議員報酬の見直しや、休日・夜間開催はよくある話だ。そのほか、兼職制度を緩和したり、年に4回の定例会だけでなく一年中活動できるように通年会期制にし、選挙運動もバンバンやれるように緩和したり…。
     全国町村議会議長会/編『議会力アップのための活動例』に25町村議会の事例が紹介されている。参考になるので、ネット検索してほしい。
     ただ、議会改革は手段に過ぎない。政策決定がどう変わるかが重要だ。議会は、①地方分権改革によって権限が拡大された首長のチェック機関であり、②住民が望む政策を作り出す機関でなければならない。
     行政監視、政策立案のためには住民との協働は欠かせない。そんな議会にするために、本当に求められているのは、「議員力」でなく「住民力」なのかもしれない。

    2023年10月21日号

  • やってはいけない事を全部やってしまった

    ざわつく電話DE詐欺

    松崎 房子 (元ゆずり葉編集委員)

     すでに1ヵ月以上も経ったのに、未だにザラリとする。
     ショートメールが入った。「電話料金の事でご連絡があります」とある。
    寄りにもよって、家計簿を広げ料金プランを変更した効果は上がっているのか? 疑問を感じていた所だった。思わず連絡先としてある番号に電話してしまった。
     即、折り返しかかってきた番号は東京管区の番号で数字自体もぜんぜん違う。「先程の番号と全然違いますがどういう事でしょうか?」「大丈夫ですよ。担当部署の者がご説明しますので」「そうなんですか?」「お客様が以前に契約された、サイトの料金が1年間未払いになっています。早急に必要料金9万9600円を振り込んでください」「そんな筈はありません。私は未だにスマホに不慣れで、サイトを契約したりは出来ません。した覚えも絶対にありません」「スマホからでなくても、PCからも出来るのです」「なんと言われても契約してはいませんから、お支払いはしません」「たまに誤認契約という事もあるので調べてみます」。
     しばらく時間を置いてまたかかってきた。「やはり誤認契約であることが判りました」「そうでしょう。絶対に契約した覚えが無いもの。ではこれでよろしいですね」「そうですが、当社のシステム上、一応全額御払い頂いて2日後に返金致しますので」「そんなの可笑しいではありませんか。払わなければどうなるのですか? こんな電話自体変じゃありません?」
    気のせいか相手の態度が変わった気がした。「払わなくても一向に構いませんよ。延滞金やら金利やらが加算されて、もっと高額の金額が引き落とされますから…」。あれこれやり取りが続いていい加減参ってしまった。
     前号の村山さんの原稿にあった、カタカナ語・和製英語? アルファベットの並び、しかも短縮? ますます混乱した。その時、自分でも変化が起きた。この金額で済むのなら、振り込んでもう終わりにしたい。高額をタンス預金していらっしゃる方もおいでらしいが、こんな気持ちかな?
    少し前に聞いた妹の対処方法が思い出された。『何が何でも本人にしか渡しません』本人が動けないので代わりの者が行きますから。『場所を教えて下さい。こちらから出向きますから』、事なきを得たとか。
     息子に連絡がついて、やっと件の電話を切った。散々息子に叱られたが、とにもかくにもセーフだった。
     知らない番号には出るな。ショートメールはやたらに開けるな。電話に出てしまったら会話をするな。
     やってはいけない事を全部やってしまった。

    2023年10月14日号

  • お役所はカタカナ語がお好き?

    氾濫するカタカナ・和製英語

    村山 朗 (会社員)

     日頃、新聞やニュースなどで氾濫する外来語やアルファベットの略語を目にするたびに、イラっとしている本紙の読者は少なくないのではないでしょうか。先日の新聞に文化庁の国語世論調査の結果が記事になっていました。それによると、「DX」「SNS」「AED」などの略語に85%の人が、意味が分からず困ることがある、と答えています。そうであっても好ましいと感じる人は全世代で45%。世代別にみると10代が76%、70歳以上では27%と世代間で大きな差がついています。好ましくないと思う人が50%を超えているので、多少ホッとしますが。 
     SNSはソーシャル・ネットワーキング・サービスの頭文字をつなげたものであろうことは想像できますが、DXがなぜデジタル・トランスフォーメーションの略なのかよくわかりません。Dがデジタルの頭文字で、次がトランスフォーメーションのTではなくてXなのはどういうわけでしょうか。AEDに至っては謎です。(自分で調べろ、ですね)
     最近の新聞の紙面をざっとながめてもTOB、PFOS、ATP、LRT、PB、DB、OP、DBS日本版、リスキリング、エシカル、ジェンダーギャップ、フレイル、プリフレイル、オーバーツーリズム、インボイス、ステルスマーケティング、ハラスメント、ロードプライシング、リテラシー、レジリエンス、マルウェア、アイデンティティー、ダイバーシティー、ソバーキュリアスと枚挙にいとまがありません。
     何の略か、どういう意味か、と問われると困る言葉ばかりです。文脈からなんとなく、と答えるしかありません。新聞をはじめとして身の回りには略語、和製英語、外来語があふれています。確かに近年どっと日本に入ってきた新しい概念で、日本語訳が追い付いていないものもあるので、仕方がない面もありますが、それにしてもあまりにも多すぎませんか? 立派な日本語があるのにどうして言い換えるのか、理解に苦しむ言葉も多いです。 
     マイナンバーなどは、英語のように聞こえますが、堂々たる和製英語と聞きます。個人番号じゃダメなのでしょうか? それをさらにマイナと略すことに至っては、どうなってラン? お役所は本当にカタカナ語がお好きなようで、10月の祝日も体育の日からスポーツの日に変えてしまいました。これには本当に腹が立ちました。
     外来語が日本語の語彙を豊かにする面があることに異論はありません。でも何でもかんでもカタカナ語にしたがる現代の風潮には、どうにも納得がゆきません。

    2023年10月7日号

  • 地域課題、セーフティ機能や継続の芽を

    コロナ後の夏まつりの復活

    清水裕理 (経済地理学博士)

     日の入りが早くなり、夏の終わり、秋の始まりを感じるこの頃です。今夏は特別な猛暑で、それまでとは一線を越え、30度あるいは35度を超えても驚かなくなるのは初めてでした。
     お米は、山梨県では収穫時期が1週間早くなる程度の影響でしたが、妻有地域の棚田は、災害級の高温障害が深刻と聞き、心配をしています。
     そして、今年は、コロナの行動制限が緩和されて初めての夏ということで、地元の夏まつりが復活するかどうかが気になりました。全国の各地域の結果をみると、今まで通りに復活、縮小して復活、中止のいずれかに分かれたように思います。
    私の田舎の集落では、夏まつりが今年から中止となってしまいました。アンケートにより、中止を希望する地元住民の方が多かったとのことです。 夏祭りは、家族を含めて約100人が集まる規模で、会費を払い、多くのご馳走と飲み物、司会が盛り上げるカラオケ大会、盆踊りやよさこい踊り、子供のじゃんけん大会など楽しかったのですが、準備は大変だったと思います。私は普段は東京にいて時々しか戻らないため、準備には参加していませんでした。
     コロナをきっかけに、中止の話が加速したことは否めず、個人的には、年1回、地元住民が集まって顔を合わせて話をする機会がなくなってしまい残念です。
     まちづくりの視点からは、例えば、地域公共交通の維持についてそうであるように、集落単位で協議会が開かれ、そこでの議論がベースとなり、また、運営主体もそこから誕生したりして、今後のあり方が決められる傾向にあります。
     私の知る事例では、福島県会津地域でそのような活動が活発で、国もその方向に、地域のことは地域で責任を持って、という意味合いも含めた政策になってきています。
     今後、交通問題に限らず、集落という単位をベースとして地域課題を把握し解決していくケースが多くなってくると思いますが、一方現実には、話は少し飛びますが、今まで集落に近い単位で活動していた郵便局や農協や交番などの拠点が減るニュースが増えており、その動きがもしも大きく進んでしまうなら、せっかく現場を大切にして築いてきたものがなくなってしまう…その動きはコロナ後に加速しているようにも感じられ、色々と事情があると思いつつ、複雑な気持ちです。
     ここにきての急な変化というものは不安を生じさせ、もしもがあったとしても、そうならないようなセーフティ機能や継続的な取り組みの芽に受け継がれれば…と思います。

    2023年9月30日号

  • 思い出ポロポロ、積もり上がるチリのように

    『旅宿 もっきりや』

    秋山郷山房もっきりや・長谷川 好文

     先日の連休、助っ人の方々が現れ引っ越しを順々と続けてくれました。長年溜め込んだ「いろいろな物」を捨てられずにいたせいで、とにかく荷物が多すぎるわけで、そうなると、ここでの引っ越しは私のような年寄りでは到底無理だと気付くことになるのです。
     そんな時に、2組の援軍でした。ひと組は引っ越しを手伝っていただいて、もうひと組のご婦人は2人して『旅宿 もっきりや』の壁面に、べんがら色のキシリトール塗料を塗ってくれたのでした。 
     なんという幸運と思いながら、連休が去った今、思い出したようにこの原稿を書き出しました。
     このひと月、少しずつ荷物を移動させて、だんだん山のように積み重ねられた私の思い出の書籍や映像を眺めていると、長年のチリや埃にまぎれて、どうもいけません。何だか雑然と散らばって、ほっぽりだされているようで、今日までの月日が何だかとてつもなく馬鹿げて埃くさいように感じてしまいます。
     いや80億にも増えた地球上の人間のひとりとして、私などは全く小さなゴミなのですが、それでもそう簡単には納得してはいけないとも、その書籍や額から顔を覗かせているそれらの寂しげな表情を感じます。積み上げられつつある荷物の山を眺めて肩を落として、ため息ばかりついてもいられないわけで、どうにか起死回生の対応をしなくてはいかんと、背を伸ばして荷物の山を眺めるのです。
     時代が変わり、秋山郷の姿も変わりますが、ここで暮らした私の歴史は私の中に残さなければなりません。ひとり者のジイさんが寂しさのあまり寝室の壁に所狭しと貼り付けた、死んでしまった兄や親たち、多くの友人の姿や戦地に引っ張り出されて亡くなり、会うことも出来なかった2人の伯父たちの姿に、毎朝声をかけて過ごした日々は、写真の中でホコリまみれになってしまったけれど、若かった頃、感動した演劇のチラシその一つひとつを貼りながら時間の経過と共に増え続けた私の歴史を探しているのです。 
     だけれども、外されたそれらは25年の間、私を支えたお札のようなものでしかないのだろう。今それらを外しながら自分の身体が、だんだん希薄になっていくようにも感じているのでした。何だか、また生まれた時に戻ってしまって、またゾロ生まれ変わって行く思い出作りのよすがとなって私を助けたり、寂しい時に涙した日々の生活のひとつひとつのシーンを、ホコリと共に思い出して支えられていくのだろうと…感じるのです。
     一枚一枚外していったあとの壁に残ったシミが過ぎてきた時間への哀愁になるのでしょう。そんなこんなを、これからここへ来る若い人たちに一言でも伝えていくことが、これからの私の仕事になりそうです。
     ただゆっくり時間をかけて降り積もる雪のなかで気持を濾過して、願いまして~はとそろばんを弾いてから『旅宿 もっきりや』を改めて始めるかと感じているのです。

    2023年9月23日号

  • 「おかしい」、議論は尽くされているか

    農協の広域合併

    斎木文夫(年金生活者)さん

     9月30日に魚沼各地で農協臨時総代会が開かれる。来年2月に十日町ほか3農協が合併する、その是非を問う会だ。私が代表を務める十日町・津南地域自治研究所は、農協広域合併には様々な問題があると感じ、「農協の広域合併を考えるシンポジウム」を開催した。その発言については2日付本紙に紹介されている。
     シンポ後、たくさんのお声をちょうだいした。その多くが「この合併は組合員のためでなく、農協の都合によるものだ」というものだった。
     十日町農協だけではない。なぜ農協は合併したがるのか。それは、経営が行き詰りつつあるからだ。農家の高齢化・減少と農産物の輸入増加によって農業・農家そのものが弱体化し続けている。そこにマイナス金利政策が続き、金融事業を悪化させた。で、合併して「経営基盤の強化」を図ろうというわけだ。
     では、合併してどうなるのか。よく言われるのがスケールメリット(規模拡大の利点)である。経営の効率化、コストの削減、生産・販売量の増大などが考えられる。十日町農協は「合併を通じて実現をめざすこと」として、①コシヒカリ・園芸農産物の販売強化、②コスト低減と効率化、③サービスの維持と地域活性化への貢献、の3点を挙げている。
     だが、これを本当にどこまでやれるのか。その前に、すでに農業・農家そのものが弱体化している現実に対してどう取り組むのかが見えない。
     合併予定の4農協の経常収支のトップは十日町農協。弱いところだけの足し算の結果は、市町村合併を見れば明らかだ。
    金融事業が盛り返すあてもない中、農協が生き残るためには、本業である農業関連事業の収益を改善するしかない。ビジョンのない支店の統廃合や職員削減だけの合併では、リストラ→サービス低下→農協離れの悪循環を生むだろう。そして、更なる大合併に突き進むことになるだろう。
     組合員を忘れ、農協組織とそこによりかかる人たちを守る広域合併は、財界と政府が望む農協つぶしに手を貸すものだ。
    シンポの後段、会場から「問題は今の農政にある。農協も農家も国の農政のいいなりだ。そのことが農協と農業をダメにした」という指摘があった。それは正しいと思う。
     ただ、たった今「広域合併をどうする」が問われている。「合併は4年間の議論の結果だ」と言う方もあろうが、少しでも「おかしい」と考える方は声を上げるべきだ。遅すぎることはない。

    2023年9月9日号