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こころとからだの学校一覧

  • 果物でアレルギー?「ラテックス・フルーツ症候群」

    果物・野菜アレルギーと植物アレルギーの関係性

     「全国なかさとサミット」といって、青森県中里町(現中泊町)と群馬県中里村(現神流町)と沖縄県久米島の仲里村(現久米島町)と十日町市に合併前の中里村の、合わせて4つの町村で盛んに交流をしていた時期がありました。今でも久米島の知り合いからはマンゴー、島バナナ、ドラゴンフルーツなどの南国の果物が届きます。
     果物は美味しいですね。でも、私は果物を食べる時、実は少し心配しながら食べています。それは私が「ラテックス」にアレルギーがあるからです。
     ラテックス、つまり仕事中にするゴムの手袋です。医者にとってはいわゆる職業病ともいえます。大学病院に勤務中、麻酔科に研修に行っていた時に、ある日、ゴムの手袋をして患者さんの麻酔を行ったところ、手袋が触っていた皮膚が真っ赤になってかゆくなった上に、なんだか気道がヒューヒューいうような感じがあり、上司の先生に相談したところ「それはラテックスアレルギーだから、今度から使わない方がいいよ」といわれたのがきっかけでした。それ以来ゴムの手袋は使っていません。
     ラテックスアレルギーと果物に何か関係があるの? なのですが、実は「ラテックス・フルーツ症候群」という現象があるのです。ラテックスアレルギーを起こす抗原たんぱく質と野菜や果物のアレルギーを起こす抗原たんぱく質が似ていることから、ラテックスアレルギーの患者さんの30~50%で、新鮮な果物やその加工品を摂取した際に、口腔アレルギーの症状(口の中の違和感やピリピリ感)、気道がヒューヒューいう喘鳴、じんましんやアナフィラキシーショックなどを起こすことを指します。
     さまざまな果物で起こる場合があるのですが、特にアボカド、キウイ、バナナ、クリはハイリスクとのことです。
     このアレルギーを起こす抗原たんぱく質が似ていることから、思わぬアレルギーを生じることを交差反応(こうさはんのう)といいます。今年は雪が少ないためにすでに花粉症の症状で困られている方もいらっしゃるかもしれませんが、花粉症にも交差反応を起こすものがあります。
     たとえば春の花粉症で有名なスギ花粉にアレルギーのある人はトマトに、秋の花粉症で有名なブタクサにアレルギーのある人はスイカ、メロン、バナナに気をつけた方が良いです。
     その他、ハンノキにアレルギーのある人はバラ科のリンゴ、モモ、イチゴ、ウリ科のスイカ、メロンなどに、シラカンバにアレルギーのある人は同じくバラ科の果物のほかにナッツ類やマスタードなどに、イネ科の植物にアレルギーのある人はメロン、スイカ、トマト、ジャガイモ、タマネギ、オレンジ、セロリ、キウイなどに気をつけた方が良いことが分かっています。果物や野菜にアレルギーのある人は逆に植物のアレルギーが出る可能性があります。
     今までお話したものはアレルギー抗原に接してすぐに症状の出る即時型アレルギーというもので、最近はよくあるアレルギーの抗原36項目を一回で調べられる検査などがありますが、まだ一般的ではないもののアレルギー抗原に接してから数日たって症状の出る遅延型アレルギーなども検査できるようになってきています。
     ただし、なかなか自分のアレルギーの原因はこれ!と全部調べきれないのも事実です。それでもアレルギー抗原が気になる方は是非当院もしくはお近くのかかりつけ医にお気軽にご相談くださいね。(たかき医院・仲栄美子医師)

    2024年3月16日号

  • 理想やゴール目標が高すぎるのでは

    「幸せを感じる」ひとりの時間を作る

     前回、「幸せの順番」についてお話しました。今回はその続き、「幸せを感じるために」についてお話します。
     私の勤めている医院は産婦人科が専門ですが、日々さまざまな年代の方の気持ちの不調についてご相談を受けます。理由はいろいろで、友人や家族との人間関係、学校の先生との人間関係、職場の人間関係、過重労働、元々のコミュニケーション能力の低さによる社会への適応障害、自身の病気、更年期のゆらぎ、認知症のはじまりとして、愛する人との死別などで、そして症状としては気持ちが沈む、というものです。
     私もうつ病の既往があるのでよく分かりますが、気持ちが沈んでいる時は自分が幸せから世界で一番遠い存在であると感じます。そして幸せそうにしている人を見ると、余計に自分はどうしてこんなに不幸なのか、と感じます。
     気持ちが落ち込むという状況は、自分以外の誰かがこの世にいるために生じると思います。世界に自分一人しかおらず毎日好きなように過ごせたとしたら、一人ぼっちで寂しいという気持ちさえ持たなければとても幸せで、気分が沈むということはないのではないかと思います。
     ですから、まずは「幸せを感じる」ためには、自分と他人を比べない、他人がどう思おうと自分の幸せを自分の時間を追求する、5分でいいので一人の時間を作る、というのが大事なのかなと思います。
     また、以前、テレビで精神腫瘍医の清水研さんとSUPER EIGHTの安田章大さんが対談をしていたのを見たのですが、そこで清水さんが日常の中での「Must(マスト、「~しなければならない」という意味)を捨てる」と気持ちが楽になる、という話をしていて、とても共感しました。
     精神腫瘍医とは、がん患者及びその家族の精神心理的な苦痛の軽減および療養生活の質の向上を目的とし、薬物療法のみならず、がんに関連する苦悩などに耳を傾ける等、専門知識、技能、態度を用いて、誠意をもった診療に積極的にあたる意思を有した精神科医・心療内科医のことを指します。
     自分もそうですが、気持ちの余裕がなくなってくると、あれをしなくちゃ、これをしなくちゃ、という気持ちで物事をこなしてしまいがちになります。
     たとえば夕飯の支度一つであっても、「疲れてるのに、夕飯の支度をしないといけない」と思いながら作るのと、「疲れて帰ってくるみんなが、美味しい美味しいと言って食べてくれるような夕飯をつくっちゃうぞ~!」と思いながら作るのでは、全然大変さも楽しさも違うのが分かると思います。
     逆に言えば、気持ちに余裕がなくなってしまっているのは、やろうとしていることのハードルが自分にとっては高いのかもしれません。
     夕飯を作ることに気持ちの余裕が持てないのは、食事を作ること自体が苦手なのに「夕飯を作るのはお母さんがやるのが当然」と思っていませんか? 疲れているのに「夕飯のおかずは3品作らないとダメ」「必ず食事は手作りでないとダメ」と思っていませんか? 自分がこうしたい! と思う理想はあるかもしれませんが、その理想やゴール目標が高すぎると幸せを感じることから遠ざかる可能性があるのではないかなと思います。そして、そのハードルの高さにご自分で気づいていない人が多いのが事実です。
     そうはいっても「幸せを感じられない!」という方は是非お気軽にご相談くださいね。(たかき医院・仲栄美子医師)

    2024年3月2日号

  • セロトニン、オキシトシン、ドーパミン

    「幸せは自分の手の中にあるんだよ」

     先日、5年以上ぶりに高校時代の同級生と土市の松海寿司さんで食事をした後、近くの「音鳴り」さんで二次会、カラオケで大きな声で笑って楽しみました。店内でご一緒させていただいた土市町内の皆さんとの昭和の名曲リレーで若かりし頃のエネルギーを思い出し、元気になりました。ありがとうございます!
     美空ひばりさんの名曲・みだれ髪を聴きながら姉がポツリ「美空ひばりほど歌えたらいいのになぁ。でも、プライベートはあまり幸せではなかったんだよね」とつぶやいたので、「人生において良いことと悪いことは同じだけやってきて最後はプラスマイナスゼロになるんだよ」と私が答えると、姉が最後に「でも自分の今はプラスの方が多い気がするな」と言ったので、妹としては良かったなと思った次第です。
     誰でも幸せになりたいと思いますよね。そして人生においてプラスが多い方が良いと思うのは当然です。果たして「幸せ」とは?「幸せ」とはどういう状態を指し、その「幸せ」とは、どうしたらやってくるのでしょう? みなさんにとっての「幸せ」とは何ですか?
     精神科医の樺沢紫苑さんは、幸せを得るためには順番がある、と言います。まず幸せになる第一歩は「自分の体と心の安定」が保たれていることから始まる、と。自分が平らで穏やかな状態であるということが基本として無ければ、本当の幸せは訪れないという意味です。
     そして第二歩は「人間関係の安定」があること。自分だけでなく周囲の状態が平らで穏やかである状態が本当に幸せになるには必要です。そして最後に「金銭的な安定」がある、という順番です。 別の視点から言えば、金銭的な幸せを得たくても、自身の心身の安定と周囲の人間関係の安定が無いところには、金銭的な幸せはやってこないということになります。なかなかシビアな話だなと思います。
     次に、私たちの脳の中にある「幸せを感じさせる」物質、という視点で「幸せ」を見てみます。すると、まず幸せになる第一歩に必要なのはセロトニンという物質です。体や心が気持ちいいと感じる時に出る物質で、不足するとうつ状態になります。うつ状態になれば「自分の体と心の安定」から離れてしまいますし、周囲との良い人間関係を構築するのは困難な状態になります。
     では充足された場合、第二歩で必要なのはオキシトシンという物質です。赤ちゃんにおっぱいをあげる、恋人と触れ合う、友人とハグする、子どもを抱っこする、などで多く分泌されるため、「人間関係の安定」に重要な物質といえます。そして最後にドーパミンという物質です。目標を達成したり、成功や昇給、褒められたりした時に出る物質で意欲につながります。「金銭的な安定」あるいは言い換えると、自分にとって最終的に到達したいゴール、自分にとっての最終的な「幸せ」につながる物質といえるかもしれません。
     この3つの物質のどれかが欠けても幸せを感じることはできないので、「幸せを感じさせる」物質という視点でも、幸せになるための順番というのはあるのかもしれません。

     私はよく中学生たちに「幸せは自分の手の中にあるんだよ」と話をします。そしてまずは「自分を大事にするというのを忘れないでね(そこから幸せは始まるよ)」とも話しています。理屈では分かっていても「幸せ」を感じにくいという方は、次回の続きをまた楽しみにしていてください。待ちきれない方はどうぞお気軽に医院までご相談くださいね。
     (たかき医院・仲栄美子医師)

    2024年2月10日号

  • 歩幅で改善する代謝・内分泌・体調不良

    女性の8割「そり腰」、3分ウォークを

    Vol 90

     新年あけましておめでとうございます。雪の少ない年末年始で、初詣に行くにも良い塩梅だと思っていた矢先に大地震と飛行機事故。なんだか不穏な1年の幕開けとなりました。
     ある筋の方々からよく言われていたのは、2023年から3年間は大きく自分や社会が変わる、いわゆる「激動の年」の真っただ中にいるのだということ。それを踏まえると、いつもと違う年明けになっているのも当然なのかもしれません。
     大きく変わるなんてなんだか嫌だなぁ、1週間後に何が起きているか分からないのは不安、すでに変化に巻き込まれて起きてしまったことから立ち直れず悲しみにふさぎ込んでいる、そんな方がおおいのではないでしょうか。でも、私たちは命がある限り前へ進んでいかなければなりません。
     今日は、そんな自分たちの一歩が明るい未来につながる話をしてみたいと思います。
     皆さんは「歩幅」というのを意識したことがありますか? 私たちが歩くとき、歩幅の平均は「身長×0・45」と言われています。つまり私は154㌢ですので、154㌢×0・45=69・3㌢が私の歩幅の平均です。横断歩道の白線の幅は約45㌢なので、意識しなくても白線をまたげるくらいで歩けると良いようです。
     歩幅が広がると何に良いかというと、主に次の4つがあげられます。①下半身の筋力がアップするとメラニン生成を抑制する物質が増えます。血行や代謝が上がって皮膚のターンオーバーが整って透明感のある肌になります。②体の中の大きな筋肉である腰、太もも、お尻の筋肉を動かすので消費エネルギーが増え痩せやすい体になります。さらに骨盤を立てて歩くとポッコリお腹や反り腰が改善します。③良い姿勢で歩くと目からの光を取り込みやすくなり、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの分泌が増えてポジティブ思考になる上に睡眠の質も上がります。④骨盤を立てた良い姿勢で歩くことで骨盤底筋を鍛えることができ、尿もれ・腰痛・便秘・冷え性・胃の不調などが改善します。
     ちなみに女性の8割は反り腰になっているといわれていますが、反り腰でいると巻き肩・肩こり、ストレートネック、ネガティブ思考、口角が下がって二重アゴで老け見え、腰痛、ポッコリお腹、ヒップのたるみ、骨盤底筋の筋力低下を引き起こします。
     壁に後頭部、肩甲骨、お尻、かかとの4点をつけて立った時に腰と壁の間に手のひらが2枚以上入る人は反り腰です。全身が映る姿見がある方は是非自分の立ち姿勢を横から見て、耳の穴、肩の中央、くるぶしの3点が地面に垂直な一直線になるように立ち、その姿勢を保ったまま3分間腹式呼吸をするだけで、かなり体の痛みや肌の不調が改善するはずです。
     歩くことに余裕がある方は、お尻に軽く両手を当ててお尻の筋肉が動くのを感じながら1分歩き、次に下腹部のお肉を両手で軽く押し込みながら1分歩き、最後の1分は足と腕をリズミカルに動かしながらリラックスして歩く、この3分ウォークを1日1回で良いのでやると、歩幅が広がり、痩せやすい体になり、反り腰も改善されるそうです。「おさんぽ整体」といわれる方法だそうです。
     良い姿勢で大きく一歩を踏み出し、ポジティブ思考で激動の年を体も心も軽く乗り切っていきましょう!立つのも歩くのもしんどいという方は、座っているだけで同じような効果を得られる当院のエムセラを是非お試しくださいね。(たかき医院・仲栄美子医師)

    2024年1月13日号

  • 「孤立しない孤立させない」がとても重要

    人と人の間にいるひと、誰かとつながりを

    vol 89

     さて前回、うつ病の患者さんを抱える家族の方がどう家庭でふるまうと良いのかをお話して途中になっていました。今回は続きをお話したいと思います。自分の実体験を強く反映した内容になっていますので、すべてがうつ病でお困りの方に合うものではないかもしれませんがご容赦くださいませ。
     前回、『怒らない』『何かを決めさせない』『気分転換に何処かへ連れ出すのはかえって逆効果』『調子の悪い合図を見極めてあげる』までお伝えしました。
     その5『一人にさせない』。患者さんは突発的に何をするか分かりません。特に危ないことは少し元気になってから起こりがちです。誰か必ずそばに居てあげる、それに近い状態にしてそっと見守ってください。
     もともと、うつ病予防は社会の中で「孤立しない孤立させない」がとても重要です。うつ病になってからも「孤立しない孤立させない」はとても重要です。自殺してしまう人、助かる人の大きな差はこの点なのではないかと感じています。
     その6『調子よく動いた後は落ち込むことを念頭に置く』。調子が良いと、今までできなかった分、本人は色々してしまいがちです。ただ、そうして動くと、エネルギーが減ってしまい、その後は一時症状が悪化したような状態になることがあります。
     本人としては、調子が良くなったと思ったのにまた病状が後戻りしたのではと不安に思う場合があります。なので、一時的に調子が悪くなったような様子が見えたときには「頑張ったから疲れたんだね。」と声掛けしてあげると良いかもしれません。うつ病は長い時間をかけてその人の根底にあるエネルギーを少しずつ削っていって起こる状
    態です。休養を取って薬を飲んだら数日後にピタッと治るものではありません。焦らずじっくりいきましょう。
     その7『愛を伝えてください』。どんなことになっても、愛は変わらずここにある、と時々口にしてあげてください。要するに、うつ病で苦しんでいるあなたを置いていなくなることはないよと伝えるのです。愛しているよ、ありがとう、今日も頑張ったね、など。本人がかえって気をつかってしまうような、ごめんね、などのネガティブな言葉は避けましょう。
     以上になります。ただしこの7か条は原則として、きちんと精神科または心療内科に通院しているという上で成り立つものです。まずはおかしいなと思ったら、早めに受診することさせることが大事です。そして可能でしたらご家族の方も受診に付き添って、主治医から現状の説明や声掛けのアドバイスをしてもらうと良いと思います。
     私が通っているジムの先生が、「うつ病の人とは言うけど、うつ病の人間とはあんまりいうことが無いですよね」といつか話してくださったのが印象的でした。つまり、何度も言いますが、人と人の間にいるひと、誰かとつながりを持っている人はうつ病にならないしうつ病も早く治る、ということなのだなと思っています。これは大人だけでなく子どもも同じなのではないかと思っています。
     うつ病は特別な病気ではありません。今は医師として患者さんの紹介や相談でお世話になっている私の主治医は、今でもはっきり「うつ病は心の風邪」と言い切ります。ということは早めに対処すれば風邪と同じく早く治る、ということなのでしょう。
     どうぞ2024年も皆さんが心穏やかに過ごされますよう、お祈り申し上げます。良いお年を!
     (たかき医院・仲栄美子医師)

    2023年12月23日号

  • 「うつ病」、一番困っているのは患者さん本人

    ゆっくり休んでもらう気遣いを

     もうすぐ冬至を迎えるにあたって、今が一番日暮れの早い季節だと分かっているのですが、やっぱり早く暗くなってしまうのは気持ちが滅入りやすくなりますね。でも今年は過去3年と比べて、週末に市内を車で走らせてみると、忘年会などでお店を貸し切って楽しんでおられる皆様の様子が見られるので、少し気分も明るく過ごせるのかもしれません。
     今から35年以上も昔、私が小学生のころからすでに、この地域の冬は日照時間が短く湿度が高いため、他の地域よりうつ病と喘息が多いのだと、内科医であった父より聞いています。今日はそんなことで、もう少し明るい話題が良いのかと思いましたが、うつ病の患者さんを抱える家族の方がどう家庭でふるまうと良いのかをお話してみたいと思います。
     それはなぜかというと、外来でも患者さんのご家族の方が見えて、「どう言葉を掛けたらよいのか分からない」という相談を受けるからです。
     うつ病は、体を動かすエネルギーが全くない状態で生活を送らなければいけない辛い病気です。一番困っているのは患者さん本人であるということを忘れないであげてください。
     その1『怒らない』。たとえ歯がゆくても、「いつまでそんな風になっているんだ!」と怒らないでください。治りたいけれど先が見えずに切ない思いをしているのは本人です。自分でも分かっていて動けない状態で、自分に対してダメだと思う感情や周りにとても迷惑をかけているという気持ちでいっぱいになっている状態なので、この言葉に大いに傷つき病状を悪化させます。
     その2『何かを決めさせない』。本人のことを考えて「仕事は思い切って休んだ方がいいんじゃない?」「仕事辞めたら?」「予定していた〇〇はやめようか?」と本人に未来の何かを決定させてはいけません。それを考える余裕が頭の中には無く、ただ今を生きるのが精一杯な状態です。このような声がけは本人にとって、何も決められない自分は生きていても無意味と感じるプレッシャーになり、自殺未遂につながります。似たような声がけとして、「薬を飲んでいれば治るよ」「大丈夫大丈夫」などの安易な未来予想は口にしないほうが良いです。
     その3『気分転換に何処かへ連れ出すのはかえって逆効果』。本人がしたいことだけさせてください。「これをやらなきゃいけない、やりたくないけど」と思いながらやることは、エネルギーをとても使い、症状を悪化させます。
     その4『調子の悪い合図を見極めてあげる』。本当に調子が悪い時に本人から、「今は気分が落ち込んでいて辛い」と言うのはなかなか困難なものです。話しかけても黙っている、ボーっとしてうつむいている、表情が消える、涙がでる、頭痛がする、など、ひとによって症状は異なりますが、調子の悪い時に最初に出てくる症状がたいていあります。これらを見かけたら、「今調子悪いのでは? 休もう。」と、していることをやめさせてゆっくり横にさせてあげる気遣いをしてあげましょう。
     さて、今回はここまで。次回続きをお知らせします。今振り返れば、私の体験からしても、なんといってもそばにいた母が一番大変だったろうなと思います。今回のお話が少しでも頑張っていらっしゃるご本人、ご家族さまのお力になればと思います。(たかき医院・仲栄美子医師)

    2023年12月16日号

  • 性的な暴言も性犯罪、問われる大人社会

    性暴力、見て見ぬ振りは犯罪です

    Vol 87

     12月になり、2学期を締めくくる性教育講演に毎週様々な学校へ伺っています。メディアでは某アイドル事務所で起きてきた性被害の話でもちきりだった時期がありましたね。それもあってか今年6月16日、「性被害の実態にあっていない」という被害者の声を受け、加害者を処罰する法律を大幅に見直した改正案が参議院本会議において全会一致で可決・成立し、7月から施行されました。
     私が行う性教育講演では、必ず性被害について話をしています。どんな話かというと、以前もお話しましたが、児童虐待の中に性的虐待があること。個人的にお付き合いしている間柄で起きうるデートDVの中の性的な暴力の例。この地域でも性犯罪被害(不同意性交)に遭う人がいること。そして、その場のノリや罰ゲームなどで裸になることやキスなどをせまる、集団でHな話しに参加することやHな歌を歌ったり聴かせたりすることを強要する、集団の中でホモネタやオカマネタで笑う、「ホモ」「レズ」などの省略形で呼ぶ、自分のジェンダーやセクシュアリティをカミングアウトした性的マイノリティの人に暴力をふるったり暴言を浴びせる、などが性暴力になることを伝えています。
     性暴力は被害に遭った本人が黙っていれば、加害者は罪に問われません。性犯罪として加害者を罪に問うためには、被害者が警察に通報する必要があります。
     皆さんはこんな場面を今まで見たことはないでしょうか。忘年会のような席で、加害者はちょっと羽目を外しただけ、酒に酔っていたから何となく勢いで、と言い訳をすることが多いかと思いますが、気分が悪くなるような卑猥な言葉を言ってきたり、わいせつな写真を見せて来たり、明らかにわいせつ目的で会が終わった後に自宅へ呼んだりすることが、上司から部下へ行われることを。 上司から部下だけでなく、同僚の間であっても、経済的・社会的関係の地位に基づく影響力で受ける不利益のある中で性暴力が行われること、その性暴力によって精神的な障害を生じさせること、そんなことが実際あってはなりません。これらは、通報されれば罪に問われる可能性があります。
     また、そのような暴力の被害があったことを聞いた者が、「まあまあ」とか「たまには間違いを起こすこともあるでしょう」とか「どうしてその場で嫌と言えなかった?」などとあしらった時には、被害者は更なる心理的社会的ダメージを受けることになり、これをセカンドレイプ(性的二次被害)と言い、これも性暴力の一つになります。
     高校生は、すでにこれらを性暴力と知っているのです。私たち大人はもっときちんと知って、若者たちに見本を見せられるように行動すべきだと思います。そして、そういう性暴力を受けている人を見て見ぬふりをした人たちは、もっと重い罪を犯していると知ってください。
     今まで診察室で多くの方の性暴力の話を聞いてきました。「それは警察に通報して良いことですよ」と言うと、みなさん大抵「そうなんですか!?」と驚かれます。それだけ日本人は性暴力に関してまだまだ無知といえるのか、あるいは被害に遭った人が黙って我慢させられる社会だったのか、大いに考えさせられます。
     これから忘新年会シーズンですね。これを読んでドキッとした方は、本当に注意してください。被害に遭っているのかも、と不安に思った方は是非お気軽にご相談くださいね。
     (たかき医院・仲栄美子医師)

    2023年12月2日号

  • 「後悔している」5つのこと

    自分がいつ死ぬかは自分では分からない

    Vol 86

    今週、下条中学校の全校生徒さんの前で性のお話講演会をしてきました。テーマは「私たちは生きるために生まれてきた」でした。伺う際にお世話になった下条中学校の関係の皆様、本当にありがとうございました。今日は下条中学校の皆さんの前で、最後にしたお話を少し書きたいと思います。
     何かでたまたま見かけたものなのですが、がんで亡くなる患者さんに多く接する機会のあった医療関係者の方のお話でした。がんで亡くなる患者さんが話してくださった「後悔していること」、そのお話の内容は大きく分けると5つに分けられる、というものでした。 それは、①自分に正直な人生を生きればよかった②そんなに働かなくても良かった③もっと自分の感情を表に出すべきだった④友達と連絡を取り続ければよかった⑤もっと自分を幸せにしてあげるべきだった、の5つです。
     私も十日町に戻ってくる前に埼玉で働いていた時は、婦人科のがんの患者さんの治療に携わっていました。子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、卵管がん、さまざまながんの患者さんたちです。お孫さんのいる年齢の人、小さい子どもさんのいる40代くらいの人、自分とたいして年齢の違わない若い30代の人、9歳の女の子などなど。
     30代の子宮体がんの方は、たかき医院が以前「笑ってこらえて」というテレビに出させてもらったときに「再発して治療のために入院しています。先生がテレビに出ていたのを見ました。顔が見られて嬉しかった」とメールを下さったのが最後のやり取りでした。今でもメールは消せません。 
     9歳の女の子は卵巣がんで入院していて、抗がん剤の点滴をする日になると、「栄美子先生の点滴が一番痛くないからお願いします」と言われてすごくプレッシャーだったのを思い出します。今となっては良き思い出。今はその子は成人して、元気にしていると聞いています。
     亡くなっていってしまった患者さんたちとお話をする時間は多くありましたが、その話の中にこの5つの内容があっただろうかと、今振り返って思い出そうとしても思い出せません。患者さんの心の内にはあったのかもしれません。私が聞きだせなかっただけかもしれません。
     皆さんは5つのうちのどの内容が一番心に響きましたか? この内容は決してがんで亡くなるという特定の状況の時に思い浮かぶものではなく、理由はどうあれ、自分の命が今尽きると分かったときに、すべての人に思い浮かぶ可能性のあるものなのではないかなと感じています。
     自分がいつ死ぬかは自分では分からないもの。もしかしたら1時間後かもしれないし、明日かもしれないし、10年後かもしれない。また、どんな状況かも分かりません。
    でも、どんな時に自分の人生の終わりが来ても、後悔が無いように生きていたいものです。
     ちなみに私は、⑤のもっと自分を幸せにしてあげるべきだった、が響きました。何をもって幸せと思うかはひとによると思うのですが、自分が毎日笑顔でいられる選択をしていくこと、を日々続けていくことが、幸せにつながるのではないかなと思っています。ぜひ、たまにこの5つを思い出してみてください。いかに生きるのかを探求したい方は、ぜひお気軽にお声掛けください。
     (たかき医院・仲栄美子医師)

    2023年11月18日号

  • 味覚嗅覚、自然なもので生きる力を

    コロナ後遺症も自然な良い香りで

    Vol 85

     最近、娘が昆虫図鑑を気に入って見ています。一緒になって春や夏に屋外で見かけた色々な虫の名前を探してみるとなかなか奥深いもので、大人のこちらがはまってしまいます。昨夜も夕飯を食べながら、ムカデとヤスデとゲジゲジの違いが家族で大論争となり、ついにはその昆虫図鑑が出てきてはみたものの、「おえー、気持ち悪い。食べ終わってからにしようよ」と当たり前の反応あり。そのうち、いま大大大発生中のカメムシにまで話が移る騒ぎでした。サファイアのように美しい青いカメムシが図鑑に載っていて、「ぜひお会いしてみたい!」と私が言ったら、あっけなく夫に「だけど所詮ヘクサだから」と一蹴されてしまい、昨夜の虫論争は終了となりました。
     さて、最近こどもたちの味覚嗅覚を感じ取る力が低下しているという話を聞いたことがあります。もともと味覚嗅覚の力は、命に危険を及ぼすものか否かを察する能力に直結しています。(以前お恥ずかしながら、私が家では酸っぱい研究家として食べられる、食べられないの限界点を探る役目をしているお話をしたと思います)
     なぜこどもたちのその能力が低下してしまっているかというと、合成香料の匂いに慣れ過ぎているから、というのが一番のようです。おうちで使っている柔軟剤の香りは良い匂いと感じるのに、自然のお花の香りなどを「くさい」というこどもが増えてきているとのこと。皆さんのおうちでは合成香料の入ったものを使いすぎてはいませんか? なるべくこどものうちは家の外に出て、自然のいろいろな匂いに触れさせる(体験し考え記憶する)ようにして、生きるための力を育んであげてください。
     とはいえ、昨年おバカな事件がありまして、自宅のブルーベリーの木に季節外れの実がたくさんついているものですから、どうしたものかとウキウキして数個収穫し、娘に食べさせよう、その前に自分がと口に入れたところ、どうもブルーベリーではないと気づき、慌てて調べたところ、どうも毒のある実なのではないかという疑惑が浮上。今日でみんなとお別れかもしれない、と母に言ったら、あっさり呆れられ、娘に言ったら「ちゃんと図鑑で調べてから、お外のものは口に入れた方が良いと思うよ」とたしなめられ、結局吐きも下しも何も起こらなかった酸っぱい研究家は、まだまだ修行が足りないと感じた次第です。
    外来でも最近「あれは取ってきたキノコのせいかもしれない」という貴重な体験を教えてくださる方がいらっしゃいますので、収穫の秋、どうぞ皆様気を付けて楽しんでくださいね。ちなみにヤギにとってブルーベリー、特に葉っぱは毒のようです。
     さて、大量発生のカメムシですが、実は私にとってはさほど臭いと感じない種類の匂いだったりします。よくパクチーに似た匂いと表現されていますが、パクチーがそんなに嫌いではないからかもしれません。私はお会いしたことがありませんが、カメムシの種類によっては青りんごやバニラの匂いに似た匂いを出すものをあるそうですよ。「所詮カメムシだけど」とまた夫には言われてしまいそうですが、考えるとワクワクします。
     新型コロナの後遺症でどうも嗅覚が、という方にも自然の良い香りをかぎ続けると治りが良いといわれているアロマ療法もありますので、どうぞ香りで何かお困りの方がいらっしゃいましたら、当院のメディカルアロマ診療部までお気軽にご相談くださいね。
     (たかき医院・仲栄美子医師)

    2023年11月4日号

  • 「胎内記憶」、聞き逃せない池川昭明医師の話

    お母さんが感じた事が胎内の赤ちゃんに伝わる

    Vol 84

     皆さんは、今日は夕飯に〇〇が食べたいな~と思って家に帰ったら、お母さんが自分の食べたいものを作っていた、という経験や、あるいは、△△さんに最近会わないけど、どうしてるかな~と思っていたら電話がかかってきた、とかメールが来たという経験はありませんか? 私は姉と自宅の湯船に2人で浸かっている時に、姉が歌う声が聞こえてきたので続きを声に出して歌ったら、「どうして今その歌を、その歌詞から歌ったの?」とびっくりされたことがあります。姉が言うには、心の中で歌を歌っていただけなのに、とのことでした。
     脳で何かを考えるとき、脳細胞と脳細胞の間で微量な電流が流れます。もしかしたら私たちが考えていることが電波となって頭から漏れでて、携帯やスマホのメッセージのように、伝えたい誰かに伝わっているのかもしれません。世の中には科学的に解明できていない不思議なことはまだまだたくさんあります。
     私は5年前に、池川明先生という産婦人科の先生を知りました。先生は産婦人科医の仕事の他に「胎内記憶」を研究してきました。お母さんのお腹の中にいた胎児だった頃の記憶を生まれてからも持っている人が世の中にいて、その人たちの証言をたくさん集めて、妊娠や出産を今までと違った側面から科学的に解明しようとしています。
     胎内記憶を探ることで、なぜ私たちはそれぞれ違った環境に生まれるのか、それはどこで決まってくるのか、何のために生まれてくるのかを知る、ちょっと間違うと宗教めいた話になりそうですが、先生はまじめに科学として論文にもしていますし、本もたくさん出しています。
     思いのほか、お腹の中の赤ちゃんは色々なことを発信していますし、外の世界とのやり取りをしているのは皆さんも知っていることです。ご飯を食べると赤ちゃんが良く動くから食べることが好きな子なのかなとか、趣味のドラムを叩いたら、どんな音楽を聴かせるよりお腹の赤ちゃんが反応したから、赤ちゃんもドラムが好きなのかも、などという話を妊婦さんたちから聞いたりしませんか?
     それだけでなく、いま既にいるお兄ちゃんやお姉ちゃんたちとお話をして自分の性別を教えてくれたり、お母さんに言われた通りの日にちに生まれてくるということも良く聞くことのように思いますよね。
     そして逆に、お母さんの見聞きしたこと感じたことは、とても赤ちゃんに伝わるものだと昔から思われています。「妊娠中に火事を見ると赤ちゃんに赤あざができる」という迷信。これは本当にあざができるわけではなく、妊婦さんが強いストレスや恐怖・不安を感じると、お腹の赤ちゃんに影響を与えることがあるから、妊婦さんには特別な配慮が必要だよ、火事=ストレス、心身的な傷=アザということなのでしょう。
     実際に迷信でなく、お母さんが右脳で感じたことは、赤ちゃんの右脳に伝わっているという研究もされています。今回11月5日に先生の講演会がたかき医院であります。 自分と子どもの絆を知り子育てに役立てることや、どうして流産や死産を選んでお母さんのところにやってくるのか、中絶をした時に赤ちゃんはどう思っているのか、どうして自分は子どもに恵まれなかったのかなど、女性なら一度は聞いてみたい話を聞いたり、質問できる機会です。先生の講演会は、予約1年待ちという超人気講演会ですので、ご興味のある方はたかき医院℡025–750–2622まで。なお当日は、ここに書けなかった私の変な話を、もう少ししたいと思っています!
     (たかき医院・仲栄美子医師)

    2023年10月21日号

  • 果物でアレルギー?「ラテックス・フルーツ症候群」

    果物・野菜アレルギーと植物アレルギーの関係性

     「全国なかさとサミット」といって、青森県中里町(現中泊町)と群馬県中里村(現神流町)と沖縄県久米島の仲里村(現久米島町)と十日町市に合併前の中里村の、合わせて4つの町村で盛んに交流をしていた時期がありました。今でも久米島の知り合いからはマンゴー、島バナナ、ドラゴンフルーツなどの南国の果物が届きます。
     果物は美味しいですね。でも、私は果物を食べる時、実は少し心配しながら食べています。それは私が「ラテックス」にアレルギーがあるからです。
     ラテックス、つまり仕事中にするゴムの手袋です。医者にとってはいわゆる職業病ともいえます。大学病院に勤務中、麻酔科に研修に行っていた時に、ある日、ゴムの手袋をして患者さんの麻酔を行ったところ、手袋が触っていた皮膚が真っ赤になってかゆくなった上に、なんだか気道がヒューヒューいうような感じがあり、上司の先生に相談したところ「それはラテックスアレルギーだから、今度から使わない方がいいよ」といわれたのがきっかけでした。それ以来ゴムの手袋は使っていません。
     ラテックスアレルギーと果物に何か関係があるの? なのですが、実は「ラテックス・フルーツ症候群」という現象があるのです。ラテックスアレルギーを起こす抗原たんぱく質と野菜や果物のアレルギーを起こす抗原たんぱく質が似ていることから、ラテックスアレルギーの患者さんの30~50%で、新鮮な果物やその加工品を摂取した際に、口腔アレルギーの症状(口の中の違和感やピリピリ感)、気道がヒューヒューいう喘鳴、じんましんやアナフィラキシーショックなどを起こすことを指します。
     さまざまな果物で起こる場合があるのですが、特にアボカド、キウイ、バナナ、クリはハイリスクとのことです。
     このアレルギーを起こす抗原たんぱく質が似ていることから、思わぬアレルギーを生じることを交差反応(こうさはんのう)といいます。今年は雪が少ないためにすでに花粉症の症状で困られている方もいらっしゃるかもしれませんが、花粉症にも交差反応を起こすものがあります。
     たとえば春の花粉症で有名なスギ花粉にアレルギーのある人はトマトに、秋の花粉症で有名なブタクサにアレルギーのある人はスイカ、メロン、バナナに気をつけた方が良いです。
     その他、ハンノキにアレルギーのある人はバラ科のリンゴ、モモ、イチゴ、ウリ科のスイカ、メロンなどに、シラカンバにアレルギーのある人は同じくバラ科の果物のほかにナッツ類やマスタードなどに、イネ科の植物にアレルギーのある人はメロン、スイカ、トマト、ジャガイモ、タマネギ、オレンジ、セロリ、キウイなどに気をつけた方が良いことが分かっています。果物や野菜にアレルギーのある人は逆に植物のアレルギーが出る可能性があります。
     今までお話したものはアレルギー抗原に接してすぐに症状の出る即時型アレルギーというもので、最近はよくあるアレルギーの抗原36項目を一回で調べられる検査などがありますが、まだ一般的ではないもののアレルギー抗原に接してから数日たって症状の出る遅延型アレルギーなども検査できるようになってきています。
     ただし、なかなか自分のアレルギーの原因はこれ!と全部調べきれないのも事実です。それでもアレルギー抗原が気になる方は是非当院もしくはお近くのかかりつけ医にお気軽にご相談くださいね。(たかき医院・仲栄美子医師)

    2024年3月16日号

  • 理想やゴール目標が高すぎるのでは

    「幸せを感じる」ひとりの時間を作る

     前回、「幸せの順番」についてお話しました。今回はその続き、「幸せを感じるために」についてお話します。
     私の勤めている医院は産婦人科が専門ですが、日々さまざまな年代の方の気持ちの不調についてご相談を受けます。理由はいろいろで、友人や家族との人間関係、学校の先生との人間関係、職場の人間関係、過重労働、元々のコミュニケーション能力の低さによる社会への適応障害、自身の病気、更年期のゆらぎ、認知症のはじまりとして、愛する人との死別などで、そして症状としては気持ちが沈む、というものです。
     私もうつ病の既往があるのでよく分かりますが、気持ちが沈んでいる時は自分が幸せから世界で一番遠い存在であると感じます。そして幸せそうにしている人を見ると、余計に自分はどうしてこんなに不幸なのか、と感じます。
     気持ちが落ち込むという状況は、自分以外の誰かがこの世にいるために生じると思います。世界に自分一人しかおらず毎日好きなように過ごせたとしたら、一人ぼっちで寂しいという気持ちさえ持たなければとても幸せで、気分が沈むということはないのではないかと思います。
     ですから、まずは「幸せを感じる」ためには、自分と他人を比べない、他人がどう思おうと自分の幸せを自分の時間を追求する、5分でいいので一人の時間を作る、というのが大事なのかなと思います。
     また、以前、テレビで精神腫瘍医の清水研さんとSUPER EIGHTの安田章大さんが対談をしていたのを見たのですが、そこで清水さんが日常の中での「Must(マスト、「~しなければならない」という意味)を捨てる」と気持ちが楽になる、という話をしていて、とても共感しました。
     精神腫瘍医とは、がん患者及びその家族の精神心理的な苦痛の軽減および療養生活の質の向上を目的とし、薬物療法のみならず、がんに関連する苦悩などに耳を傾ける等、専門知識、技能、態度を用いて、誠意をもった診療に積極的にあたる意思を有した精神科医・心療内科医のことを指します。
     自分もそうですが、気持ちの余裕がなくなってくると、あれをしなくちゃ、これをしなくちゃ、という気持ちで物事をこなしてしまいがちになります。
     たとえば夕飯の支度一つであっても、「疲れてるのに、夕飯の支度をしないといけない」と思いながら作るのと、「疲れて帰ってくるみんなが、美味しい美味しいと言って食べてくれるような夕飯をつくっちゃうぞ~!」と思いながら作るのでは、全然大変さも楽しさも違うのが分かると思います。
     逆に言えば、気持ちに余裕がなくなってしまっているのは、やろうとしていることのハードルが自分にとっては高いのかもしれません。
     夕飯を作ることに気持ちの余裕が持てないのは、食事を作ること自体が苦手なのに「夕飯を作るのはお母さんがやるのが当然」と思っていませんか? 疲れているのに「夕飯のおかずは3品作らないとダメ」「必ず食事は手作りでないとダメ」と思っていませんか? 自分がこうしたい! と思う理想はあるかもしれませんが、その理想やゴール目標が高すぎると幸せを感じることから遠ざかる可能性があるのではないかなと思います。そして、そのハードルの高さにご自分で気づいていない人が多いのが事実です。
     そうはいっても「幸せを感じられない!」という方は是非お気軽にご相談くださいね。(たかき医院・仲栄美子医師)

    2024年3月2日号

  • セロトニン、オキシトシン、ドーパミン

    「幸せは自分の手の中にあるんだよ」

     先日、5年以上ぶりに高校時代の同級生と土市の松海寿司さんで食事をした後、近くの「音鳴り」さんで二次会、カラオケで大きな声で笑って楽しみました。店内でご一緒させていただいた土市町内の皆さんとの昭和の名曲リレーで若かりし頃のエネルギーを思い出し、元気になりました。ありがとうございます!
     美空ひばりさんの名曲・みだれ髪を聴きながら姉がポツリ「美空ひばりほど歌えたらいいのになぁ。でも、プライベートはあまり幸せではなかったんだよね」とつぶやいたので、「人生において良いことと悪いことは同じだけやってきて最後はプラスマイナスゼロになるんだよ」と私が答えると、姉が最後に「でも自分の今はプラスの方が多い気がするな」と言ったので、妹としては良かったなと思った次第です。
     誰でも幸せになりたいと思いますよね。そして人生においてプラスが多い方が良いと思うのは当然です。果たして「幸せ」とは?「幸せ」とはどういう状態を指し、その「幸せ」とは、どうしたらやってくるのでしょう? みなさんにとっての「幸せ」とは何ですか?
     精神科医の樺沢紫苑さんは、幸せを得るためには順番がある、と言います。まず幸せになる第一歩は「自分の体と心の安定」が保たれていることから始まる、と。自分が平らで穏やかな状態であるということが基本として無ければ、本当の幸せは訪れないという意味です。
     そして第二歩は「人間関係の安定」があること。自分だけでなく周囲の状態が平らで穏やかである状態が本当に幸せになるには必要です。そして最後に「金銭的な安定」がある、という順番です。 別の視点から言えば、金銭的な幸せを得たくても、自身の心身の安定と周囲の人間関係の安定が無いところには、金銭的な幸せはやってこないということになります。なかなかシビアな話だなと思います。
     次に、私たちの脳の中にある「幸せを感じさせる」物質、という視点で「幸せ」を見てみます。すると、まず幸せになる第一歩に必要なのはセロトニンという物質です。体や心が気持ちいいと感じる時に出る物質で、不足するとうつ状態になります。うつ状態になれば「自分の体と心の安定」から離れてしまいますし、周囲との良い人間関係を構築するのは困難な状態になります。
     では充足された場合、第二歩で必要なのはオキシトシンという物質です。赤ちゃんにおっぱいをあげる、恋人と触れ合う、友人とハグする、子どもを抱っこする、などで多く分泌されるため、「人間関係の安定」に重要な物質といえます。そして最後にドーパミンという物質です。目標を達成したり、成功や昇給、褒められたりした時に出る物質で意欲につながります。「金銭的な安定」あるいは言い換えると、自分にとって最終的に到達したいゴール、自分にとっての最終的な「幸せ」につながる物質といえるかもしれません。
     この3つの物質のどれかが欠けても幸せを感じることはできないので、「幸せを感じさせる」物質という視点でも、幸せになるための順番というのはあるのかもしれません。

     私はよく中学生たちに「幸せは自分の手の中にあるんだよ」と話をします。そしてまずは「自分を大事にするというのを忘れないでね(そこから幸せは始まるよ)」とも話しています。理屈では分かっていても「幸せ」を感じにくいという方は、次回の続きをまた楽しみにしていてください。待ちきれない方はどうぞお気軽に医院までご相談くださいね。
     (たかき医院・仲栄美子医師)

    2024年2月10日号

  • 歩幅で改善する代謝・内分泌・体調不良

    女性の8割「そり腰」、3分ウォークを

    Vol 90

     新年あけましておめでとうございます。雪の少ない年末年始で、初詣に行くにも良い塩梅だと思っていた矢先に大地震と飛行機事故。なんだか不穏な1年の幕開けとなりました。
     ある筋の方々からよく言われていたのは、2023年から3年間は大きく自分や社会が変わる、いわゆる「激動の年」の真っただ中にいるのだということ。それを踏まえると、いつもと違う年明けになっているのも当然なのかもしれません。
     大きく変わるなんてなんだか嫌だなぁ、1週間後に何が起きているか分からないのは不安、すでに変化に巻き込まれて起きてしまったことから立ち直れず悲しみにふさぎ込んでいる、そんな方がおおいのではないでしょうか。でも、私たちは命がある限り前へ進んでいかなければなりません。
     今日は、そんな自分たちの一歩が明るい未来につながる話をしてみたいと思います。
     皆さんは「歩幅」というのを意識したことがありますか? 私たちが歩くとき、歩幅の平均は「身長×0・45」と言われています。つまり私は154㌢ですので、154㌢×0・45=69・3㌢が私の歩幅の平均です。横断歩道の白線の幅は約45㌢なので、意識しなくても白線をまたげるくらいで歩けると良いようです。
     歩幅が広がると何に良いかというと、主に次の4つがあげられます。①下半身の筋力がアップするとメラニン生成を抑制する物質が増えます。血行や代謝が上がって皮膚のターンオーバーが整って透明感のある肌になります。②体の中の大きな筋肉である腰、太もも、お尻の筋肉を動かすので消費エネルギーが増え痩せやすい体になります。さらに骨盤を立てて歩くとポッコリお腹や反り腰が改善します。③良い姿勢で歩くと目からの光を取り込みやすくなり、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの分泌が増えてポジティブ思考になる上に睡眠の質も上がります。④骨盤を立てた良い姿勢で歩くことで骨盤底筋を鍛えることができ、尿もれ・腰痛・便秘・冷え性・胃の不調などが改善します。
     ちなみに女性の8割は反り腰になっているといわれていますが、反り腰でいると巻き肩・肩こり、ストレートネック、ネガティブ思考、口角が下がって二重アゴで老け見え、腰痛、ポッコリお腹、ヒップのたるみ、骨盤底筋の筋力低下を引き起こします。
     壁に後頭部、肩甲骨、お尻、かかとの4点をつけて立った時に腰と壁の間に手のひらが2枚以上入る人は反り腰です。全身が映る姿見がある方は是非自分の立ち姿勢を横から見て、耳の穴、肩の中央、くるぶしの3点が地面に垂直な一直線になるように立ち、その姿勢を保ったまま3分間腹式呼吸をするだけで、かなり体の痛みや肌の不調が改善するはずです。
     歩くことに余裕がある方は、お尻に軽く両手を当ててお尻の筋肉が動くのを感じながら1分歩き、次に下腹部のお肉を両手で軽く押し込みながら1分歩き、最後の1分は足と腕をリズミカルに動かしながらリラックスして歩く、この3分ウォークを1日1回で良いのでやると、歩幅が広がり、痩せやすい体になり、反り腰も改善されるそうです。「おさんぽ整体」といわれる方法だそうです。
     良い姿勢で大きく一歩を踏み出し、ポジティブ思考で激動の年を体も心も軽く乗り切っていきましょう!立つのも歩くのもしんどいという方は、座っているだけで同じような効果を得られる当院のエムセラを是非お試しくださいね。(たかき医院・仲栄美子医師)

    2024年1月13日号

  • 「孤立しない孤立させない」がとても重要

    人と人の間にいるひと、誰かとつながりを

    vol 89

     さて前回、うつ病の患者さんを抱える家族の方がどう家庭でふるまうと良いのかをお話して途中になっていました。今回は続きをお話したいと思います。自分の実体験を強く反映した内容になっていますので、すべてがうつ病でお困りの方に合うものではないかもしれませんがご容赦くださいませ。
     前回、『怒らない』『何かを決めさせない』『気分転換に何処かへ連れ出すのはかえって逆効果』『調子の悪い合図を見極めてあげる』までお伝えしました。
     その5『一人にさせない』。患者さんは突発的に何をするか分かりません。特に危ないことは少し元気になってから起こりがちです。誰か必ずそばに居てあげる、それに近い状態にしてそっと見守ってください。
     もともと、うつ病予防は社会の中で「孤立しない孤立させない」がとても重要です。うつ病になってからも「孤立しない孤立させない」はとても重要です。自殺してしまう人、助かる人の大きな差はこの点なのではないかと感じています。
     その6『調子よく動いた後は落ち込むことを念頭に置く』。調子が良いと、今までできなかった分、本人は色々してしまいがちです。ただ、そうして動くと、エネルギーが減ってしまい、その後は一時症状が悪化したような状態になることがあります。
     本人としては、調子が良くなったと思ったのにまた病状が後戻りしたのではと不安に思う場合があります。なので、一時的に調子が悪くなったような様子が見えたときには「頑張ったから疲れたんだね。」と声掛けしてあげると良いかもしれません。うつ病は長い時間をかけてその人の根底にあるエネルギーを少しずつ削っていって起こる状
    態です。休養を取って薬を飲んだら数日後にピタッと治るものではありません。焦らずじっくりいきましょう。
     その7『愛を伝えてください』。どんなことになっても、愛は変わらずここにある、と時々口にしてあげてください。要するに、うつ病で苦しんでいるあなたを置いていなくなることはないよと伝えるのです。愛しているよ、ありがとう、今日も頑張ったね、など。本人がかえって気をつかってしまうような、ごめんね、などのネガティブな言葉は避けましょう。
     以上になります。ただしこの7か条は原則として、きちんと精神科または心療内科に通院しているという上で成り立つものです。まずはおかしいなと思ったら、早めに受診することさせることが大事です。そして可能でしたらご家族の方も受診に付き添って、主治医から現状の説明や声掛けのアドバイスをしてもらうと良いと思います。
     私が通っているジムの先生が、「うつ病の人とは言うけど、うつ病の人間とはあんまりいうことが無いですよね」といつか話してくださったのが印象的でした。つまり、何度も言いますが、人と人の間にいるひと、誰かとつながりを持っている人はうつ病にならないしうつ病も早く治る、ということなのだなと思っています。これは大人だけでなく子どもも同じなのではないかと思っています。
     うつ病は特別な病気ではありません。今は医師として患者さんの紹介や相談でお世話になっている私の主治医は、今でもはっきり「うつ病は心の風邪」と言い切ります。ということは早めに対処すれば風邪と同じく早く治る、ということなのでしょう。
     どうぞ2024年も皆さんが心穏やかに過ごされますよう、お祈り申し上げます。良いお年を!
     (たかき医院・仲栄美子医師)

    2023年12月23日号

  • 「うつ病」、一番困っているのは患者さん本人

    ゆっくり休んでもらう気遣いを

     もうすぐ冬至を迎えるにあたって、今が一番日暮れの早い季節だと分かっているのですが、やっぱり早く暗くなってしまうのは気持ちが滅入りやすくなりますね。でも今年は過去3年と比べて、週末に市内を車で走らせてみると、忘年会などでお店を貸し切って楽しんでおられる皆様の様子が見られるので、少し気分も明るく過ごせるのかもしれません。
     今から35年以上も昔、私が小学生のころからすでに、この地域の冬は日照時間が短く湿度が高いため、他の地域よりうつ病と喘息が多いのだと、内科医であった父より聞いています。今日はそんなことで、もう少し明るい話題が良いのかと思いましたが、うつ病の患者さんを抱える家族の方がどう家庭でふるまうと良いのかをお話してみたいと思います。
     それはなぜかというと、外来でも患者さんのご家族の方が見えて、「どう言葉を掛けたらよいのか分からない」という相談を受けるからです。
     うつ病は、体を動かすエネルギーが全くない状態で生活を送らなければいけない辛い病気です。一番困っているのは患者さん本人であるということを忘れないであげてください。
     その1『怒らない』。たとえ歯がゆくても、「いつまでそんな風になっているんだ!」と怒らないでください。治りたいけれど先が見えずに切ない思いをしているのは本人です。自分でも分かっていて動けない状態で、自分に対してダメだと思う感情や周りにとても迷惑をかけているという気持ちでいっぱいになっている状態なので、この言葉に大いに傷つき病状を悪化させます。
     その2『何かを決めさせない』。本人のことを考えて「仕事は思い切って休んだ方がいいんじゃない?」「仕事辞めたら?」「予定していた〇〇はやめようか?」と本人に未来の何かを決定させてはいけません。それを考える余裕が頭の中には無く、ただ今を生きるのが精一杯な状態です。このような声がけは本人にとって、何も決められない自分は生きていても無意味と感じるプレッシャーになり、自殺未遂につながります。似たような声がけとして、「薬を飲んでいれば治るよ」「大丈夫大丈夫」などの安易な未来予想は口にしないほうが良いです。
     その3『気分転換に何処かへ連れ出すのはかえって逆効果』。本人がしたいことだけさせてください。「これをやらなきゃいけない、やりたくないけど」と思いながらやることは、エネルギーをとても使い、症状を悪化させます。
     その4『調子の悪い合図を見極めてあげる』。本当に調子が悪い時に本人から、「今は気分が落ち込んでいて辛い」と言うのはなかなか困難なものです。話しかけても黙っている、ボーっとしてうつむいている、表情が消える、涙がでる、頭痛がする、など、ひとによって症状は異なりますが、調子の悪い時に最初に出てくる症状がたいていあります。これらを見かけたら、「今調子悪いのでは? 休もう。」と、していることをやめさせてゆっくり横にさせてあげる気遣いをしてあげましょう。
     さて、今回はここまで。次回続きをお知らせします。今振り返れば、私の体験からしても、なんといってもそばにいた母が一番大変だったろうなと思います。今回のお話が少しでも頑張っていらっしゃるご本人、ご家族さまのお力になればと思います。(たかき医院・仲栄美子医師)

    2023年12月16日号

  • 性的な暴言も性犯罪、問われる大人社会

    性暴力、見て見ぬ振りは犯罪です

    Vol 87

     12月になり、2学期を締めくくる性教育講演に毎週様々な学校へ伺っています。メディアでは某アイドル事務所で起きてきた性被害の話でもちきりだった時期がありましたね。それもあってか今年6月16日、「性被害の実態にあっていない」という被害者の声を受け、加害者を処罰する法律を大幅に見直した改正案が参議院本会議において全会一致で可決・成立し、7月から施行されました。
     私が行う性教育講演では、必ず性被害について話をしています。どんな話かというと、以前もお話しましたが、児童虐待の中に性的虐待があること。個人的にお付き合いしている間柄で起きうるデートDVの中の性的な暴力の例。この地域でも性犯罪被害(不同意性交)に遭う人がいること。そして、その場のノリや罰ゲームなどで裸になることやキスなどをせまる、集団でHな話しに参加することやHな歌を歌ったり聴かせたりすることを強要する、集団の中でホモネタやオカマネタで笑う、「ホモ」「レズ」などの省略形で呼ぶ、自分のジェンダーやセクシュアリティをカミングアウトした性的マイノリティの人に暴力をふるったり暴言を浴びせる、などが性暴力になることを伝えています。
     性暴力は被害に遭った本人が黙っていれば、加害者は罪に問われません。性犯罪として加害者を罪に問うためには、被害者が警察に通報する必要があります。
     皆さんはこんな場面を今まで見たことはないでしょうか。忘年会のような席で、加害者はちょっと羽目を外しただけ、酒に酔っていたから何となく勢いで、と言い訳をすることが多いかと思いますが、気分が悪くなるような卑猥な言葉を言ってきたり、わいせつな写真を見せて来たり、明らかにわいせつ目的で会が終わった後に自宅へ呼んだりすることが、上司から部下へ行われることを。 上司から部下だけでなく、同僚の間であっても、経済的・社会的関係の地位に基づく影響力で受ける不利益のある中で性暴力が行われること、その性暴力によって精神的な障害を生じさせること、そんなことが実際あってはなりません。これらは、通報されれば罪に問われる可能性があります。
     また、そのような暴力の被害があったことを聞いた者が、「まあまあ」とか「たまには間違いを起こすこともあるでしょう」とか「どうしてその場で嫌と言えなかった?」などとあしらった時には、被害者は更なる心理的社会的ダメージを受けることになり、これをセカンドレイプ(性的二次被害)と言い、これも性暴力の一つになります。
     高校生は、すでにこれらを性暴力と知っているのです。私たち大人はもっときちんと知って、若者たちに見本を見せられるように行動すべきだと思います。そして、そういう性暴力を受けている人を見て見ぬふりをした人たちは、もっと重い罪を犯していると知ってください。
     今まで診察室で多くの方の性暴力の話を聞いてきました。「それは警察に通報して良いことですよ」と言うと、みなさん大抵「そうなんですか!?」と驚かれます。それだけ日本人は性暴力に関してまだまだ無知といえるのか、あるいは被害に遭った人が黙って我慢させられる社会だったのか、大いに考えさせられます。
     これから忘新年会シーズンですね。これを読んでドキッとした方は、本当に注意してください。被害に遭っているのかも、と不安に思った方は是非お気軽にご相談くださいね。
     (たかき医院・仲栄美子医師)

    2023年12月2日号

  • 「後悔している」5つのこと

    自分がいつ死ぬかは自分では分からない

    Vol 86

    今週、下条中学校の全校生徒さんの前で性のお話講演会をしてきました。テーマは「私たちは生きるために生まれてきた」でした。伺う際にお世話になった下条中学校の関係の皆様、本当にありがとうございました。今日は下条中学校の皆さんの前で、最後にしたお話を少し書きたいと思います。
     何かでたまたま見かけたものなのですが、がんで亡くなる患者さんに多く接する機会のあった医療関係者の方のお話でした。がんで亡くなる患者さんが話してくださった「後悔していること」、そのお話の内容は大きく分けると5つに分けられる、というものでした。 それは、①自分に正直な人生を生きればよかった②そんなに働かなくても良かった③もっと自分の感情を表に出すべきだった④友達と連絡を取り続ければよかった⑤もっと自分を幸せにしてあげるべきだった、の5つです。
     私も十日町に戻ってくる前に埼玉で働いていた時は、婦人科のがんの患者さんの治療に携わっていました。子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、卵管がん、さまざまながんの患者さんたちです。お孫さんのいる年齢の人、小さい子どもさんのいる40代くらいの人、自分とたいして年齢の違わない若い30代の人、9歳の女の子などなど。
     30代の子宮体がんの方は、たかき医院が以前「笑ってこらえて」というテレビに出させてもらったときに「再発して治療のために入院しています。先生がテレビに出ていたのを見ました。顔が見られて嬉しかった」とメールを下さったのが最後のやり取りでした。今でもメールは消せません。 
     9歳の女の子は卵巣がんで入院していて、抗がん剤の点滴をする日になると、「栄美子先生の点滴が一番痛くないからお願いします」と言われてすごくプレッシャーだったのを思い出します。今となっては良き思い出。今はその子は成人して、元気にしていると聞いています。
     亡くなっていってしまった患者さんたちとお話をする時間は多くありましたが、その話の中にこの5つの内容があっただろうかと、今振り返って思い出そうとしても思い出せません。患者さんの心の内にはあったのかもしれません。私が聞きだせなかっただけかもしれません。
     皆さんは5つのうちのどの内容が一番心に響きましたか? この内容は決してがんで亡くなるという特定の状況の時に思い浮かぶものではなく、理由はどうあれ、自分の命が今尽きると分かったときに、すべての人に思い浮かぶ可能性のあるものなのではないかなと感じています。
     自分がいつ死ぬかは自分では分からないもの。もしかしたら1時間後かもしれないし、明日かもしれないし、10年後かもしれない。また、どんな状況かも分かりません。
    でも、どんな時に自分の人生の終わりが来ても、後悔が無いように生きていたいものです。
     ちなみに私は、⑤のもっと自分を幸せにしてあげるべきだった、が響きました。何をもって幸せと思うかはひとによると思うのですが、自分が毎日笑顔でいられる選択をしていくこと、を日々続けていくことが、幸せにつながるのではないかなと思っています。ぜひ、たまにこの5つを思い出してみてください。いかに生きるのかを探求したい方は、ぜひお気軽にお声掛けください。
     (たかき医院・仲栄美子医師)

    2023年11月18日号

  • 味覚嗅覚、自然なもので生きる力を

    コロナ後遺症も自然な良い香りで

    Vol 85

     最近、娘が昆虫図鑑を気に入って見ています。一緒になって春や夏に屋外で見かけた色々な虫の名前を探してみるとなかなか奥深いもので、大人のこちらがはまってしまいます。昨夜も夕飯を食べながら、ムカデとヤスデとゲジゲジの違いが家族で大論争となり、ついにはその昆虫図鑑が出てきてはみたものの、「おえー、気持ち悪い。食べ終わってからにしようよ」と当たり前の反応あり。そのうち、いま大大大発生中のカメムシにまで話が移る騒ぎでした。サファイアのように美しい青いカメムシが図鑑に載っていて、「ぜひお会いしてみたい!」と私が言ったら、あっけなく夫に「だけど所詮ヘクサだから」と一蹴されてしまい、昨夜の虫論争は終了となりました。
     さて、最近こどもたちの味覚嗅覚を感じ取る力が低下しているという話を聞いたことがあります。もともと味覚嗅覚の力は、命に危険を及ぼすものか否かを察する能力に直結しています。(以前お恥ずかしながら、私が家では酸っぱい研究家として食べられる、食べられないの限界点を探る役目をしているお話をしたと思います)
     なぜこどもたちのその能力が低下してしまっているかというと、合成香料の匂いに慣れ過ぎているから、というのが一番のようです。おうちで使っている柔軟剤の香りは良い匂いと感じるのに、自然のお花の香りなどを「くさい」というこどもが増えてきているとのこと。皆さんのおうちでは合成香料の入ったものを使いすぎてはいませんか? なるべくこどものうちは家の外に出て、自然のいろいろな匂いに触れさせる(体験し考え記憶する)ようにして、生きるための力を育んであげてください。
     とはいえ、昨年おバカな事件がありまして、自宅のブルーベリーの木に季節外れの実がたくさんついているものですから、どうしたものかとウキウキして数個収穫し、娘に食べさせよう、その前に自分がと口に入れたところ、どうもブルーベリーではないと気づき、慌てて調べたところ、どうも毒のある実なのではないかという疑惑が浮上。今日でみんなとお別れかもしれない、と母に言ったら、あっさり呆れられ、娘に言ったら「ちゃんと図鑑で調べてから、お外のものは口に入れた方が良いと思うよ」とたしなめられ、結局吐きも下しも何も起こらなかった酸っぱい研究家は、まだまだ修行が足りないと感じた次第です。
    外来でも最近「あれは取ってきたキノコのせいかもしれない」という貴重な体験を教えてくださる方がいらっしゃいますので、収穫の秋、どうぞ皆様気を付けて楽しんでくださいね。ちなみにヤギにとってブルーベリー、特に葉っぱは毒のようです。
     さて、大量発生のカメムシですが、実は私にとってはさほど臭いと感じない種類の匂いだったりします。よくパクチーに似た匂いと表現されていますが、パクチーがそんなに嫌いではないからかもしれません。私はお会いしたことがありませんが、カメムシの種類によっては青りんごやバニラの匂いに似た匂いを出すものをあるそうですよ。「所詮カメムシだけど」とまた夫には言われてしまいそうですが、考えるとワクワクします。
     新型コロナの後遺症でどうも嗅覚が、という方にも自然の良い香りをかぎ続けると治りが良いといわれているアロマ療法もありますので、どうぞ香りで何かお困りの方がいらっしゃいましたら、当院のメディカルアロマ診療部までお気軽にご相談くださいね。
     (たかき医院・仲栄美子医師)

    2023年11月4日号

  • 「胎内記憶」、聞き逃せない池川昭明医師の話

    お母さんが感じた事が胎内の赤ちゃんに伝わる

    Vol 84

     皆さんは、今日は夕飯に〇〇が食べたいな~と思って家に帰ったら、お母さんが自分の食べたいものを作っていた、という経験や、あるいは、△△さんに最近会わないけど、どうしてるかな~と思っていたら電話がかかってきた、とかメールが来たという経験はありませんか? 私は姉と自宅の湯船に2人で浸かっている時に、姉が歌う声が聞こえてきたので続きを声に出して歌ったら、「どうして今その歌を、その歌詞から歌ったの?」とびっくりされたことがあります。姉が言うには、心の中で歌を歌っていただけなのに、とのことでした。
     脳で何かを考えるとき、脳細胞と脳細胞の間で微量な電流が流れます。もしかしたら私たちが考えていることが電波となって頭から漏れでて、携帯やスマホのメッセージのように、伝えたい誰かに伝わっているのかもしれません。世の中には科学的に解明できていない不思議なことはまだまだたくさんあります。
     私は5年前に、池川明先生という産婦人科の先生を知りました。先生は産婦人科医の仕事の他に「胎内記憶」を研究してきました。お母さんのお腹の中にいた胎児だった頃の記憶を生まれてからも持っている人が世の中にいて、その人たちの証言をたくさん集めて、妊娠や出産を今までと違った側面から科学的に解明しようとしています。
     胎内記憶を探ることで、なぜ私たちはそれぞれ違った環境に生まれるのか、それはどこで決まってくるのか、何のために生まれてくるのかを知る、ちょっと間違うと宗教めいた話になりそうですが、先生はまじめに科学として論文にもしていますし、本もたくさん出しています。
     思いのほか、お腹の中の赤ちゃんは色々なことを発信していますし、外の世界とのやり取りをしているのは皆さんも知っていることです。ご飯を食べると赤ちゃんが良く動くから食べることが好きな子なのかなとか、趣味のドラムを叩いたら、どんな音楽を聴かせるよりお腹の赤ちゃんが反応したから、赤ちゃんもドラムが好きなのかも、などという話を妊婦さんたちから聞いたりしませんか?
     それだけでなく、いま既にいるお兄ちゃんやお姉ちゃんたちとお話をして自分の性別を教えてくれたり、お母さんに言われた通りの日にちに生まれてくるということも良く聞くことのように思いますよね。
     そして逆に、お母さんの見聞きしたこと感じたことは、とても赤ちゃんに伝わるものだと昔から思われています。「妊娠中に火事を見ると赤ちゃんに赤あざができる」という迷信。これは本当にあざができるわけではなく、妊婦さんが強いストレスや恐怖・不安を感じると、お腹の赤ちゃんに影響を与えることがあるから、妊婦さんには特別な配慮が必要だよ、火事=ストレス、心身的な傷=アザということなのでしょう。
     実際に迷信でなく、お母さんが右脳で感じたことは、赤ちゃんの右脳に伝わっているという研究もされています。今回11月5日に先生の講演会がたかき医院であります。 自分と子どもの絆を知り子育てに役立てることや、どうして流産や死産を選んでお母さんのところにやってくるのか、中絶をした時に赤ちゃんはどう思っているのか、どうして自分は子どもに恵まれなかったのかなど、女性なら一度は聞いてみたい話を聞いたり、質問できる機会です。先生の講演会は、予約1年待ちという超人気講演会ですので、ご興味のある方はたかき医院℡025–750–2622まで。なお当日は、ここに書けなかった私の変な話を、もう少ししたいと思っています!
     (たかき医院・仲栄美子医師)

    2023年10月21日号